拍手夢れびゅう

…泣かないで下さい。
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あたし、

好きになりたかったの、


自分のこと















あなたのことを


好きになってからずっと




























『………また、』
ここでしたか。



















屋上は彼女にとって恰好の場所らしい。


誰もいないうえに、
空がひとりじめだから、

だそうだ。










いつのまにか隣にいた竜崎に

ふ、と吸っていた煙草をとられる。



「あっ、ちょっと…っヤダ返して、」


『………にがいです』



「…バニラフレーバーとかあるよ。
買ってあげようか?」

りゅーざきくん?、








『そうやって軸をそらす、』
あなたの悪い癖です、





『今日学校は』


「……、定休日」


『なんですかそれ』


「営業しゅーりょー、」


さ、帰った帰った。


手をひらひらさせて
私を見もせずに彼女は言う。




『非行に走る青少年…』
「なんでよ、
煙草吸って学校行ってないだけで、
なんで非行なのよ、」


世の中には弱い人を傷つけるカスみたいな奴らや、

親にただ授業料を無駄に払わせて、まともにしてるのは合コンか現実逃避、



「そいつらのほうがあたしからすればよっぽど非行だね」







その点あたしは、
授業出なくても成績は優秀よ、
出席日数に反比例してるあたりが皮肉だけど、
なんて言って笑う。




『………いいんですか』

「……なに」


『……いいんですよ、別に』
あなたがよければそれで、







『あなた本当は学校を休む理由があるんでしょう、』

わざとそんなことして、


煙草なんて吸ってるんでしょう、






『似合ってませんよ、』そーゆーの。






ふー…、と
竜崎が煙草を吸って、
あたしに返す。


「……にがくない?」


『……そう思うならやめればいい、』



「……」



返された煙草をうつむきがちに見る






『………泣かないことは、強いことです、』


『でもそれを隠すために、
自分でないものを塗りたくると、』






いつか、
何も見えなくなりますよ
















「………」



「………じゃあ、やっつけてよ、」




「あたしの大切なもの奪うもの、
みんなやっつけてよ、」













『…あなたが望むのなら、』
考えなくもありません。



ああ


バカみたいだ



この人が言うことをすべて鵜呑みにして救われてしまう、



竜崎、


あたし







「もう…」

「ひとりぼっちはやだよ………」












帰ってきてほしい
返してほしい







あたしの家族を返してほしい













『あなたを守るなんて、言いません』




『ただ、』








あなたが泣かないでいいように、






心だけ開けといて下さいね、







『……閉めて、どこか行ったら承知しませんよ、』
















あなたはまだまだ子供ですから、

ひとりで背負うのは早すぎるんですよ









あなたはまだまだ
誰かに叱られながら、






手をかけられて
生きなくてはいけないんですよ、














「…竜崎知ってる?」


『なんですか』


「正義は絶対勝つんだってさ、」


『……』



「どっかのパンダが言ってた」


『……人語を操るパンダですか、
それは是非捕獲して研究してみたいものですね』


「…でもそのパンダ、
頭いーくせに、
イマイチ女心わかってないんだよねぇ」



『……』


「というわけで、」


研修がてらデートしてみない?








ね?パンダくーん?




おどけた調子で、
フェンスにつっぷしながら、





彼女の意地っ張りは
今に始まったことではなくて








(……、)


(…なに)



(顔あげてください、)


(………、いや)




(……、
泣かないで下さい)



(…泣いてない)



(嬉し泣きですか)

(泣いてない)



(私とのデートがそんなに嬉しいなんて光栄です)



(………、ちがうってば)


(照れなくていーんですよ、)





心配しなくても
もう1人になんてしませんから、








(失ってしまったあなたの家族にはなれないけれど、)



傍にいて、
あなたが間違いそうになるまえに、
叱ってあげますから、














だから









もうそんなふうに、笑わなくていいんですよ、












(…これは大胆です)


(………)

(いきなり抱きつかれてしまいました)


(……いま、あたしの顔みたら、ぶっとばす)


(………、身の安全のためにやめておきます)

というわけでこうします、







ぎゅ、








(……泣き顔くらい見せてもバチあたりませんよ、)


(泣いてないし!
パンダが喜ぶかと思って
抱きついてやってんの、仕方なく)



(あなたの予想通りです、
パンダ大喜びです)












だから、





もう、

そんなふうに泣かなくていいんですよ



















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