絶滅危惧種、なんて馬鹿げている。絶滅危惧種を護るのも、絶滅危惧種に仕立て上げるのも人間だなんて馬鹿げている。


テレビ画面に映る生物はゆるりと空を仰ぐ。その仕種は何だかあまりに普通だったのだが、若い女のこんなに可愛い動物がいなくなるなんて嫌です、などという甲高い声と真面目ぶったナレーションのせいで、悲しげに遠き日の仲間を思う姿としてお茶の間に提供されている。

別にどんな思考も悪いとは思わないし、勝手にすればいいと思うが、何とも馬鹿げていると感じてしまうのは自分が捻くれているからというだけなのだろうか。自分以外の誰も思わないのだろうか、

余計なことをしなければ絶滅危惧種になんてならなかった、と。

生物というのは生まれながらに本能的に、無条件で生きようとするのだ。そして大概の生物は環境の変化に合わせられずに抵抗もせずに絶滅したか、順応し進化を重ね、種としての変化こそあれ生き続けているはずだ。絶滅危惧種なんてモノに括られはじめたのは人間がそう当てはめたからだ。生物たるモノ、自然に生きて自然に死ぬのに、生態系とかいうのをゴチャゴチャさせて絶滅危惧種なんて名を人間が付けたから可笑しいのだ。
絶滅危惧種を護るのも、絶滅危惧種に仕立て上げたのも人間だなんて馬鹿げている。

人間なんてモノは、地球上で最も身勝手な生物に違いない。


考えても意味のないことの面倒さに気付き、億劫ながらテレビの電源を落とすと、背中に重みが掛かった。
重みの正体なんて分かりきっていたが、目で確認する。ほら、決まりきっている。
銀色の髪がさらさらと流れて真っ白な頬にかかっている、女みたいに弱々しい阿呆な幼なじみの顔が近い。キスしたいか、と聞こうとして何となく止めた。きっと理不尽な程怒鳴られて終わる気がするし、とただ見つめていれば幼なじみは男鹿、知ってるか、と弧を描いた唇で言った。
それから、


「兎は寂しいと死ぬんだぞ」


特に、白兎とか、などと馬鹿なことを言いながら自分の白銀の髪を摘んで見せた。


「、…知ってる」
「なら構えよ、ゲーム飽きた」


常にはない天真爛漫な笑みに余程つまらなかったのだろうと思い、おう、とだけ返事をし技をかける。力をいれ過ぎないよう注意しながらの締め技でも、ギブギブ無理、と騒ぎが起こる。軟弱者め。
 

「何だよ、構ってやってんだろ」
「そんな構われ方ちっとも嬉しくねぇよ、ゲームしよ、ゲーム」
「アホか飽きたんだろ?」
「RPGに飽きただけ。対戦しよってこと」
「んだよ、それならそう言えよ、ボケ」
「お前のがボケだろ、ボケ。せっかくテレビつまんなそうに見てるからって気遣って誘ってやったのに、もう知らね」


不貞腐れたように死んだ目をしながら、また一人でゲームをしようとする背中はまるで、先程テレビ画面で悲しげに遠き日の仲間を思っていることにされたアイツみたいに見える。暴れオーガだ悪魔だと言われる自分も結局は人間ということだ。人間は自分の都合が良いようにフィルターをかけて、世界を見る。もっと広く興味を持て、と怒鳴られがちのオレの世界なんて一般の半分もないだろうから、その狭さの分だけ厚いフィルターがかけられているに違いない。
この幼なじみにも例外なく。


「、対戦すっぞ」
「おう」


フィルター越しの淋しい背中に声を掛ければ、それが当然とでもいうような顔をされたので、軽く小突いた。痛ぇな、馬鹿男鹿、という反応と声に安心する。その一方でそうやって何でも受け入れるなよ、離れられなくなるだろ、と今更ながらに思いつつコントローラーを握れば、画面にはオレのお気に入りが映る。オレのことなら殆ど知っている幼なじみの視線は画面に釘付けだ。やるなら勝つ、は負けず嫌いなオレ等の共通思想だから仕方がない。

お気に入りはつまり得意でもあるから、勝ちたいという気持ちとは関係なく肩の力は抜けていく。ゲームは始まり、色とりどりの間抜けな生き物が降ってくる軽快な音に混じって、幼なじみの声がした。



愛せよ、オレを

視線は画面のまま、オレの思考は止まり、指も止まり、ただ積み上がる間抜け共が早く何とかしろ、と煩い。



愛せよ、オレを、なんてふざけんな。もうとっくに愛してやってるだろ、だからお前はそんなにも、





そこに続く言葉は呑み込んだ。言葉にしてはならない、考えてもいけない。













愛せよ、と不遜に言い切ったお前は絶滅危惧種。

そんなお前を護るのはオレ、仕立て上げたのも、オレ。






















 

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