※病み
 暴力、性表現









赤い、熱い痛い、じわりと染み込む鈍痛に顔をしかめたが、目の前の男はそんなオレを見て穏やかに笑っている。


「オレな」


何処と無く幸福感の滲むような、しかし何の感情も、たいした抑揚もない声で、目の前の男は言う。


「お前にぶっかけても正直あんま興奮しない」


非人道的で粗野で下品な科白さえ、この男の前では許容される。コイツにかかれば、上も下も、右も左も、白も黒もない。善悪に問わず自由奔放な男は、聖人のように穏やかに笑って血の滴る拳を固める。


「オレのモノだって少し嬉しくなるけど、興奮とかはしない」


自分勝手な妄想と願望を押し付けてくる男をオレはただ、じっと見つめ返した。


「ああいうのは、白が栄えるから興奮するんであって、お前の場合はお前のが綺麗な白だから、むしろ汚したみたいで正直好かん」


男にぶっかけられて汚れて好かないのはオレじゃなくて後始末が大変なベッドだし、一切後始末をしない男が気にすることではない、とぼんやりと考える。俺には好みよりもダルい身体に鞭を打たねばならない後始末の方が問題なのだ。


「正直な話、こっちのが、ずっと栄えてると思う。ずっと綺麗だと思う」


目を細めて柔らかい微笑みを浮かべながら思い切り引いた脚を、迷い無く振り下ろされる。男が裸足とはいえ、腹部に与えられた衝撃は大して和らぐこともなく、胃液が喉元まで押し上げられた酸味が気持ち悪い。思い切り咳き込めば、男は恍惚とした微笑みでオレを捕らえ、世界平和を説くように心からの言の葉を告げる。


「正直な、こっちのが、オレは、好きだ」


口内の胃液と血が混じり合った唾液を嚥下しながら、呆れてしまう。歪んだ微笑みと暴力でしか愛を見いだせないなんて、相も変わらず馬鹿な男だ。
愚かな男の為に灼けた喉に鞭を打って些細なことを指摘する。


「…、正直って何回言うんだ?」
「綺麗だ、古市」


己の性癖と苛虐志向と支配欲が満たされる感覚に陶酔する男が繰り返す暴力は、いっそ神々しいまでに愚かで穢らわしい制裁だ。
そう、コレは人間界の魔王の私刑で儀式なのだ。対象はたった一人の脆弱な人間だけの、愛と忠誠を誓わせる為にある、人間界の魔王の私刑で儀式だ。
だから、今日も俺は、ダルい身体に鞭を打たねばならない苦労も負担も忘却し、己の身体も心も投げ出して見せ、従順に誘う。
 












「じゃ、もっとお前好みにしてくれよ」









白に滲む紅は愛の色だと君は言う。




















 

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