※男鹿がドSからドMに急転直下
 かつ、変態(暴力、性表現)気質
 古市が普段以上に苦労人













「、そろそろ、オレ疲れたんだけど」
「…、もう少しだけ」


気遣いの為だろう、古市が溜め息を飲み込んだのが見えた。自分から頼んでおいて難ではあるが酷い面倒事であるとは理解っている。しかし、もう少しだけでいいから続けて欲しいのだ。あと少しでいいから続けて欲しい。続けてくれないとオレは…、


「…、ほら。続けてやるから、足開けよ」


少し呆れたような苦笑の後、古市は退けようとしていた足を元の位置に戻した。嬉しい。嬉しいが、他人の足の間に素足を下ろす気分は如何なものなんだろうか。


「こんな事されて喜ぶなんて馬鹿だよな、本当に、なぁ?」
「、今だけ馬鹿でもいい」
「…、男鹿は常に馬鹿だろ」


眉をしかめながら口元に緩く弧を描く表情が、脳髄を熱くし、身体を火照らせる。他人の素足が足の間で身体の主の意思を全く問わずに動き回る。呼吸が乱れて、思考は定まらない。ただ無闇に継続する快楽だけを望んでは揺らぐ。
いや、違う。ただの他人の素足などではダメなのだ。コイツの素足がいい。コイツの素足でなければダメなのだ。


何時からだっただろうか、他人が地に平伏す姿に充足感を得るようになったのは。

何時からだっただろうか、唯一心を許す男に支配権を与えたくなったのは。


「なぁ?」


胸倉を掴んで近距離で視線を合わせられ、胸が熱く軋む。支配権を与えるなんて、そんな甘いモノじゃない。蔑まれ、全てを奪われたい。屈伏し、隷属したい。


「うわ、血ついたし、なんか気持ち悪」


男鹿大丈夫か、と問う古市の白い素足にはぬるり、と穢らわしいオレの血が跳ね、赤く紅く滴っている。先程蹴られた時に爪が掠れて出来た傷から跳ねたらしい。鮮烈な彩りに喉が鳴る。


「、古市」
「ん?」


もっと蹴られたい、もっと踏まれたい、もっと蔑まれたい。もう何年かして、その細腕が少しは強くなったのならば、古市さえ良かったのならば、どうか何時かは思い切り殴ってほしい。


「オレ、な」
「うん、何?」


ドロドロのメチャクチャにして、蔑んでほしい。でも、その前に、


「オレが、舐めて綺麗にしようか?」


我が身を虐げる暴力が、蔑んだ視線が、高圧的な言葉が、支配が欲しいから跪いて足に頬を寄せて縋る。


「…、舐めたいの?」
「舐めたい」
「舐めたいとか…、男鹿、マジ変態だな」


奪いたい。奪われたい。奪われたい。蹴られたい。奪われたい。睨まれたい。奪われたい。殴られたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。蔑まれたい。奪われたい。壊されたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。凌辱されたい。踏まれたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。泣かされたい。虐げられたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。許されたい。奪われたい。奪われたい。罵られたい。奪われたい。侵されたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。詰られたい。奪われたい。辱められたい。奪われたい。構われたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。愛されたい。奪われたい。奪われたい。奪われたい。支配されたい…、

どんな望みだって、


「古市だけだ」
「悪いけど、ちっともかっこよくねぇからな」


少しの溜め息に思案する瞳、それから、暫くもしないうちにそっと覗く許容の彩りに胸が躍る。眩しくて愛おしい銀色が紡ぐ甘いテノールが心地良い。


「、お前がしたいなら…、舐めても、いいよ」


膝元に投げ出された右足に、望んだ応えに、歓喜が沸き起こる。早速舌を這わせようと伸ばしたが、小さく息を呑まれ、そのまま足を逃がされてしまった。おあずけが悲しくて拗ねてヘコんで見せれば、困ったような喃語が聞こえた。


「あの、マジで舐めるわけ?せめて、ほら、オレ風呂とか入ってこようか?」
「風呂とかいらん、古市なら問題無い。メチャクチャ舐めたい」


心変わりを恐れて直ぐに舌をつけた。ん、と声が洩れ、僅かの震えの後は特に咎められず安心した。
気を良くして舌先を尖らせ、爪との間や指の間まで丁寧に舐める。しかし、丹念に穢れを清めたはずなのに足は早々と舐め終えてしまった。もっと舐めていたい。脚の方まで舐めてもいいだろうか。少しずつ範囲を広げていきながら確認と許しを請うように名を呼ぶ。


「、古市」
「嫌だ男鹿、名前嫌、だ」


上目気味にして古市と視線を絡ませながら何故、と問う。嗚呼、上気して真っ赤な頬と目元が愛らしくて堪らない。高鳴る胸が抑えられない。感じて震える身体を支えてやりたい。手が使えないことが今だけは酷く疎ましくて仕方がない。背中の方で組まれてしまっている腕に少しだけ力を込めて揺すり、鬱憤を晴らす。


「、なんか、恥ずかしいもん」

 
可愛い、可愛い、なんて愛おしいのだろう。この古市って生物は。好き、好き、好き大好き、愛してる。


「古市、古市古市、」


土下座は好きだ、他人にさせるのが。だが、古市だけを相手に土下座をするのはもっと好きだ。跪いた俺を罵ってくれればいいし、平伏した俺を踏みつけてくれればいいと思う。今は腕が後ろに回っている以上、肩が足代わりではあるが犬みたいな四足歩行で跪いているオレに、犬にも満たない畜生以下の扱いを受けさせてくれればいい、弄ばれたい。
そうなのだ、弄ばれたいのだ、ガラクタみたいに。でも絶対に捨てないでほしい。お前が死ぬ時まで絶対に棄てないでほしい。

お前のお気に入りの玩具になりたい。

叶うのならば、侮辱の言葉で塗れさせられながら愛玩されたい。しかし、欲深くなるのはいけない。現状に満足しなければならない。古市が傍に居てくれるだけでも嬉しいのに、優しい古市はこんな戯れ事に付き合ってくれてさえいる。
古市を独り占めしているオレは、幸せモノだ。

オレを支配していいのはお前だけだ。オレの生殺与奪の権限は全てお前のモノだ。世界に二人だけなら安心出来るのにな、世界に二人きりならオレは間違いなくお前のお気に入りの玩具になれるのに、等と果てのない思考を巡らし舌を伸ばし続ける。

幸せ、幸せ、二人だけの世界がただ嬉しい。

幸せを噛み締めながら、伸ばしていた舌が腿に差し掛かったあたりで、華麗な蹴りが入った。痛、くはなかったが、酷く不満だ。何故この場面で蹴りが必要なのかわからない。更に、


「オレ帰るっ」


古市は帰る、と言い出した。オレ以外の玩具を探しに往くのだ、そう思うと我慢出来ない。耳まで赤らめている古市の後ろ姿を見れば、直ぐにそれが杞憂だとわかるが、安心なんて出来ない。なんたってこの世界には二人きりは有り得ないからだ。


「、古市っ」


腕を伸ばして壁に拘束する。手軽な檻から優しい古市は逃げられずに困り気味に眉尻を下げている。


「古市、好きだ。困らせて悪い」

 
それから腕勝手に使ってすまん、と言えば、そんなのいいよと早口に答えられた。確かに腕を縛ってくれ、と言い始めたオレにお前は嫌悪にも似た表情で頑なに嫌だって言っていたから、後ろに括られているフリをすることになったんだし、古市はあまり気にならないのかもしれないな、とぼんやりと思う。好きだから拘束されたいっていうのは一般的なことのはずなのに、古市は何故俺を縛り付けなかったのかはよくわからない。古市だって女と遊ぶ時メールやら何やらで雁字搦めになって喜んでるくせに、不思議な奴だ。まぁ、そんな所も可愛いから別段気にしなくていいので今は保留にしておこう。


「別に、別にオレ」


古市がオレの腕の中にいる。何か言いたげに眼を伏せている。煌めく長い睫が震えている。桜色の薄い唇が言葉を象る。


「困ってねぇ、…って言ったら大嘘だけどさ、そりゃオレ全然気持ち良くはないし、寧ろ気持ちは断然悪いけど」


やんないとお前困るんだろ、と困り顔で笑った。うん、やっぱりお前は可愛いよ、古市くん。


「…、古市」
「、何?」


呆れ顔の笑顔、困り顔の笑顔、何時も純粋な笑顔は見せてくれないお前だけど、極偶にしか見られない笑顔が死にそうになるくらい可愛いことをオレは知っている。だから、


「またシてくれるか?」
「謝るくらいなら自重しろォォォっ」





そりゃ、無理だろ古市。

お前はオレのモノだし、オレはお前のモノじゃないと、な?









だから、一生傍にいて





















 

[TOPへ]
[カスタマイズ]




©フォレストページ