「…、?」


起き上がった。俺は確かに起き上がった。しかし、起き上がった俺の視界に映るのは俺自身の部屋であり、古市も当然いない。一気に脱力した。


「今ので夢オチはねぇだろ、三流作家でもやらねぇよっ」


不祥事を起こさなかったことを素直に喜べない。喜べるわけがない。何時からが夢かもよくわからない。とりあえず分かっている結果から順に考えていくしかないのだが、その結果がまず虚しい。


「マジか、夢とか…、夢精とか」


何時から夢だったのか、何故あの内容なのか。多感なお年頃中二か俺は、もう高一だというのにこの様か。


「いや、この際夢精はいいとして、夢ならもう少しサービスしろよ。古市の阿呆」


不健全ながら、年頃の青年にはある種の健全な事柄は捨て置き、行き場のない感情を夢中で散々自分を振り回した相手への愚痴に変えた。考えることすらもう億劫だった。愚痴を言いながら後始末をし出す行動は変わらずに情けないが、自分だけの空間では責めるも許すも自分しか出来ないのだ。少しの甘えくらい勘弁願いたい、そうぼんやりと考えていたのに数秒遅れて、がた、やらバラバラ、と物音がした。
厭に響いた物音に意味もなく背筋を冷やしながら、ゆっくりと視線を動かしていく。

嗚呼、神様は意外とベタな展開がお好きなようだ。


「…、えと、ふ、る市」
「…、お邪魔、致しました」


体温計やスポーツ飲料、タオルなんかを一セットにした落下物もそのままに、もの凄い勢いで階段を駆け下りて行く古市を呆然と眺めながら、三流作家でもこのオチはない、と重ねて思った。絶対ない。むしろ信じない。



結局何時からが夢だったのか。これから俺はどんな表情をして想い人に逢いに行って、どんな調子で自分さえ把握出来ていない事の次第を説明すべきなのか、何一つ案が出てこない。





ただ、この三流作家にだって有り得ないオチを生み出す、どうしようもない愚かさに名前を付けるとしたならば、













それは、若年性青春病に違いない。





















 

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