コルダお題

□06.安心しきった深い眠り
1ページ/1ページ

2009.12.1


 そよそよと緩やかな風が、チェロを弾く自分の頬を撫ぜていく。

(…あ、今……いい音でたな……)

 思わず、上手く音を出せた自分に頬を緩めた。
 屋上で演奏をすると、気持ちが落ち着いて良い音色が響くから、とても好き。

 だけど、きっと。今日こんなにも良い音色を出せるのは――傍に香穂先輩がいるからなんだろう。

 ちらり…と譜読みをしている香穂先輩の方へ視線を向けた。すると、先輩は楽譜を開き片手にペンを持ったまま、首をコクンコクン――と動かしている。
 今にも、ベンチから崩れ落ちそうだ。

「……? 香穂、先輩?」

 演奏を一旦止め、先輩に近付いて耳を澄ましてみると、小さく“すぅ…”と寝息をたてていた。
 僕はしゃがみ込み、先輩を見上げて微笑む。

「寝顔…可愛い……」

 そっと柔らかな頬に触れると、先輩は一瞬眉をひそめて“ううん…”と唸った。

(誰にも……この寝顔を見せたくないな)

 だって、こんなに天使みたいに可愛いから。他の人が見たら、きっと先輩に恋をしてしまうに違いない。

「……嫌、だな……」

 先輩に恋をするのは僕だけでいい。この寝顔にキスを落とせるのも――僕だけの、特権だから。

 僕は隣に座って、静かに先輩を自分の肩に凭れかけさせる。

「――おやすみなさい、香穂先輩……」

 さらり、と甘い香りがする彼女の髪を撫でて。何処からか聞こえてくる軽快なメロディーに、欠伸を一つ。

 幸せと寄り添いながら、僕は静かに瞼を閉じた。


*fin*


お題部屋へ戻る

小説置き場へ戻る

[TOP]

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ