お話(二次)

□望みと逃避
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――こんな異常な状況で、何故かミュートのことを思い出している。
レドナはミュートで、ボクで、イヴァリースの人々の望みの具現化したものだ。
…ミュート、ボクと君は、きっとおなじだ。

そんな思いがマーシュに見せた幻だろうか、二人から離れたところにミュートが立っている。
ボクを見ないで、と言いそうになって、そのさびしげな表情に気付く。
違う。そんなことはどうだっていい…
(ミュート、そんな顔しないで)
ミュートのママの形見のぬいぐるみが、その腕に抱かれている。
幻影に苛まれている自分のだらしない姿が、ひどく恥ずかしくなった。
(ミュート)
逃げてばかりでは、何も解決しないのだから。

マーシュの目にわずかながら理性のようなものが戻ったことに、レドナは気がつかなかった。
「これがお前の望みだよ」
「……――、ちがっ……ぁあ…!」
堕ちる、堕とされる。
しかし快楽へと流されようとする身体に逆らって、マーシュは手を伸ばした。
打ち捨てられたレドナの剣の柄を掴むと、自らの手のひらを思い切り傷つける。
「―あああ…!!」
鮮血があふれる。けれども、痛みに一度はきつく瞑られた瞼が再びひらいたとき、その瞳には強い意思が戻っていた。
そしてマーシュは己の血のついたままの剣を、返す刃でレドナに向けた。
「おまえ…!」
それでも余裕をもった動きで剣を避けたレドナが、驚きながらマーシュとの距離を取る。
「…お前なんかに、負けたりしない…。お前を倒して、みんなのところに帰るんだ!」
マーシュの言葉を受けて、レドナは嗤ったようだった。
その口の中で何ごとか呟いた後、光を帯びつつある手のひらがマーシュへと向けられる。
「まだ認めないのか。…つまんないなあ」
光が、収束する。
「――お前なんかさっさと消えちゃえ」
閃光が迸った、次の瞬間――全身に衝撃が走る。


そしてマーシュは、モンブランたちの、ミュートの声を聞いた。




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