お話(二次)

□望みと逃避
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どうしてそんなことが言える、ボクの何を知っているんだ――震える声もそのままに、衝動に突き動かされるようにマーシュが問うた。
「お前は…誰だ!」
「ボクはお前だよ、マーシュ・ラディウユ。…お前だけじゃない。
このイヴァリースに集った、望む者たち全てが抱くほんとうの夢」
そこで一旦レドナは、獲物の息があるかどうかを確かめるようにマーシュを冷たい一瞥をくれた。
「みずから偽りつづけ、胸の内に殺し続けた真実の望み…心の底でこうありたいと望んでいた姿が、このボクなんだよ!」
マーシュは、足許の地面がぐにゃりと歪むような気がした。視界が真っ白になる、呼吸が乱れていくのがわかった。
「…いやだ…こんなのボクじゃない、…ボクはそんなこと考えてない!」
「否定することないじゃないか。ここなら何でも叶うんだ。もう見ないで済むんだよ。
ドネッドにかかりっきりのママも、家に居場所がなくて仕事ばかりしてるパパも」
「でも――…でも…っ」
「正直になれよ」
処理しきれない感情の渦に喘いでいるあいだにじりじりと距離を詰められて、気がつけばすぐそこにレドナの人形のように整った顔がある。
「誰もおまえを責めたりしない。欲しいものを欲しいって言って何が悪い?」
間近で覗きこまれるけれど、レドナの手には鋭く光る剣が握られている。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
「わからない、ボクは…」
「ずっと我慢してたんだろう?」
「わからないんだよっ!!」
冷たい石の床についた手が、がたがたと震えていた。
囁くような悪魔の声が、耳元で聞こえる。
「ぜんぶ、望めばいいじゃないか」
望み―自分の望みとは一体何なのだろう。世界を元に戻して、それから、それから…
知らぬ間に涙がこぼれていた。何が悲しくて泣いているのかもわからなかった。
「―あいつはすべてを望んだんだ。おまえだってそうする権利がある。ここは夢の力が集まる場所だから、おまえが望めばそれは叶えられる」
あいつ、とはミュートのことだろうか。ミュートの望みが引き金になって、このイヴァリースは生まれたのだから、ここはミュートの夢の世界の一部でもあるのだろう。
ジャッジマスターがいつか言っていた、レドナは激しい感情しか持たないミュートだ、と。
そうだとすれば、ミュートの心に語りかけることが出来れば、攻撃の通じなかったレドナに勝ってここを脱出することも、あるいは可能かもしれない。
彼の言葉に耳を傾けてはいけないのだ。
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