お話(二次)

□表層、午後
1ページ/2ページ

深い赤、そうだ。
薔薇はどこかあの人の姿にも、似ている。壮絶に咲き誇る赤。けれども真に人に
媚びることなく、咲く花。
老いた櫻に絡み付くつる薔薇の花びらたちは、ここで何を見るのだろうか―――


初夏の日差しがゆるく照る午後、真弓は薔薇の木の正面に立ってぼんやりと物思
いに耽っていた。
あずさから聞いた、あの小使いさんがここで何者かに酷いことをされていたとい
う話。
あずさは汚らわしいとあの人を罵るけれども、彼は子供だから仕方がない。
あずさのそういうところが、彼を彼たらしめてもまた、いるのだけれど。
一方の真弓には、なんだか不思議な気持ちがする。
いつも穏やかで控え目で、ただそこに存在して咲く小さな花のようなあの人が、
ここで、誰かと。
恐ろしいような、それでいてひどくひどく惹きつけられるような、不思議な気持
ちがする。
じゃり、と土を踏んで、真弓はそこへ手を触れた。
薔薇のつるが幾重にも絡まる、幹。
あの写真にあったのはこの辺りだろうか。そんな他愛もない想像を巡らせながら、
何の気なしに薔薇のつるに手を伸ばした。
「…つ、っ」
ぷつり、
指先に血が滲む。
薔薇の棘が傷付けた人差し指を、口に含んだ。
知らぬ間に、微笑が口許をかすめる。
あの人は、ここで、
…ここで。
血の味がする。傷口を舐めればぴりりと痛んだ。
あずさに送りつけられてきた写真の要の姿は、真弓にはあまりにも衝撃的過ぎた
けれど、同時になんて美しい、…とも思ったのだ。
うすくいろづく肌に散る朱、白、ただ月の光をうつすからっぽの双眸。
ふっと、嗤う。
あの人はどんな気持ちでここにいたんだろう。
それとも意識などとうに手放していたのだろうか?
そしてあの人は、今どんな気持ちでこの明るい日差しの中に佇んでいるのだろう

なんだかひどく可笑しくて、くくっと真弓は小さく喉を鳴らして笑った。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ