お話(二次)
□表層、午後
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深い赤、そうだ。
薔薇はどこかあの人の姿にも、似ている。壮絶に咲き誇る赤。けれども真に人に
媚びることなく、咲く花。
老いた櫻に絡み付くつる薔薇の花びらたちは、ここで何を見るのだろうか―――
。
初夏の日差しがゆるく照る午後、真弓は薔薇の木の正面に立ってぼんやりと物思
いに耽っていた。
あずさから聞いた、あの小使いさんがここで何者かに酷いことをされていたとい
う話。
あずさは汚らわしいとあの人を罵るけれども、彼は子供だから仕方がない。
あずさのそういうところが、彼を彼たらしめてもまた、いるのだけれど。
一方の真弓には、なんだか不思議な気持ちがする。
いつも穏やかで控え目で、ただそこに存在して咲く小さな花のようなあの人が、
ここで、誰かと。
恐ろしいような、それでいてひどくひどく惹きつけられるような、不思議な気持
ちがする。
じゃり、と土を踏んで、真弓はそこへ手を触れた。
薔薇のつるが幾重にも絡まる、幹。
あの写真にあったのはこの辺りだろうか。そんな他愛もない想像を巡らせながら、
何の気なしに薔薇のつるに手を伸ばした。
「…つ、っ」
ぷつり、
指先に血が滲む。
薔薇の棘が傷付けた人差し指を、口に含んだ。
知らぬ間に、微笑が口許をかすめる。
あの人は、ここで、
…ここで。
血の味がする。傷口を舐めればぴりりと痛んだ。
あずさに送りつけられてきた写真の要の姿は、真弓にはあまりにも衝撃的過ぎた
けれど、同時になんて美しい、…とも思ったのだ。
うすくいろづく肌に散る朱、白、ただ月の光をうつすからっぽの双眸。
ふっと、嗤う。
あの人はどんな気持ちでここにいたんだろう。
それとも意識などとうに手放していたのだろうか?
そしてあの人は、今どんな気持ちでこの明るい日差しの中に佇んでいるのだろう
。
なんだかひどく可笑しくて、くくっと真弓は小さく喉を鳴らして笑った。