☆オリジナルSS☆


□悲痛の刻(とき)
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──世界は、突然壊れた。
何の前兆もなく。
そう、


 突 然 に … 。





「─貴良(たから)…。目を覚ましてくれ…」
ん…誰だろう…?
俺は、直接頭に響いてくる声で、目を覚ました。
…朝、なのかな…?…でも、なんでそんなに、悲痛な言い方してるんだよ…?
取り敢えず、俺は目を開けて、世界を見る。
…あれ?
「誰も…居ない…?」
そんな筈は…。
…っていうか!どこだよ、ここ!!今まだ、天井しか見てないけど…絶対、ここ俺の部屋じゃないよね!?
困惑する気持ちを抑えて、俺はひとまず、体ごと横を向く事にする。
…えっ…と…。
取り敢えず、今見える景色は、ちょっと大きめの窓と…カーテン。あと、小さい箪笥みたいなのがあるね。
手を伸ばして開けると、中には……携帯電話?
…あ、これ俺のだ!
携帯を握ったまま、俺は身を起こしてベッドに座り、今自分が居る部屋を観察してみる。
…んー…。枕元…っていうの?この辺には、壁とコードで繋がった、細長いプラスチックがある。その先端には、スイッチも付いているみたいだ。
…で、窓とは反対の方向には……ちょっと距離の空いた突き当たりの壁に、スライド式の扉が見える。
…見える範囲でも、これだけの材料が揃えば、ここがどこなのかは、決定付けられる。
(…病院だ…)
なんで比較的健康な俺が、病院の、それも個室のベッドなんかに寝かされていたのかは、分からない。
特に痛い所もないし、何より、入院した覚えなんてない。
俺はベッドから降りると、まず窓を開けた。
ふわっ…と入ってきた風が、髪を撫でる。風に撫でられた髪が肌に当たり、くすぐったく感じながらも、窓から下を見下ろすと、ここは結構高い階層に位置する事が分かった。
けど…明らかに、何かが変だ。
明るさから察するに、今はまだ、完全に白昼の筈。
なのに、外を走る車や歩く人が、一人も居ない。
(…どうなってるんだ…?)
窓を閉めると、俺はこの病室を出、何となく、壁に掛かっているプレートを見上げる。

『909号 水無月 貴良(ミナヅキ タカラ)様』

名前…合ってる。…いや、寝かされてたんだし、今ここが俺の病室なのは、当然なんだけどさ…。
……。
あ れ ・ ・ ・ ?
ちょっと…待てよ…?病院(に限らないけど)って、『4』とか『9』の号室は、普通はないんじゃなかったっけ…?
語呂の都合上、縁起悪いってんでさ…。
……。
い、いやいや!俺の勘違いだって、きっと!
語呂なんて、そんな簡素な理由だけで数字を蔑ろにしたら、アルファなんとかさん…だっけ?知らないけどさ!数字考えた人に対して失礼だしね!!
取り敢えず、俺はそう思う事にした…。

  *   *   *

「……」
院内の廊下に張られた案内マップを見ながら、俺はナースステーションに来たけど…なんでだろう?ここにも、誰も居ない…。
来る途中も、誰にも会わなかったし…まるで、世界に俺だけが取り残されたかのような孤独感に襲われる。…その時だった。
「……ん?」
…目が覚めてから、初めて“音”を聞いたような気がする。
ひたひたという、裸足で廊下を歩くような音。
…人だ!良かった、俺だけじゃなかったんだ!
安心感と同時に、少し足音を気味悪くも感じたけど、孤独な世界よりはずっとマシだ。
俺は足音のする方向へ走り出す。
…けど…。
「はぁ…はぁ…っ」
…おかしい。向こうの足音も、こっちに向かって来てる筈なのに、走っても走っても、一向に足音に近付かないような気がする…。
…音の大きさも、ずっと同じだし…。
俺は少し休もうと、膝に手を着いて、深く息をする。
「…はー…っ」
…すると、向こうの足音も、不意に止んだ。
「…?」
どうしたんだろう…?あっちの人も、疲れたのかな…?
そう思った時だった。
「ぅ、うぅ…っ」
「っ!?」
突然、背後から不気味な呻き声が聞こえたので、俺は驚いて振り返る。と…。
「…うわぁあぁっ!!!?」
たった今まで、俺のすぐ傍には人なんて居なかったから、それだけでも十分驚いたのに、挙げ句の果てに、そこに居たのは血糊がべったりと付いた包帯を、頭から口元にかけて巻いた男だった。
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