☆オリジナルSS☆


□悲痛の刻(とき)
2ページ/10ページ

「ぅ、ぅぅう…っ!!」
男が右腕を振り上げると、同時にぎらつく何かが見えた。
あれは…!
(包丁…っ!?)
「うわぁっ!!」
反射的に俺は避けたけど、男は真っ直ぐに包丁を振り下ろしていた。…避けてなかったら、今頃俺は…っ!!
「…ッ!!?」
突然、本当に突然に、右目に激痛が走った。
「あ゛…うぐぁ…ッ!!」
…なんだ、これッ…!?
洒落になんない程、痛いッ!!
「は…!う゛あ゛ぁ゛ぁッ!!」
…文字通り、血の涙が出そうな痛み。
けど、激痛に悶える俺に、男は遠慮なく、再び包丁を振り翳す。
「…ッ…!!」
…こんな所で、訳も分かんないのに殺されてたまるか…ッ!!
俺は必死に激痛に耐えながらも、包帯男とは逆の方向に走り出す。
…ていうかさ!なんで俺、命狙われてんの!?
見ず知らずの包帯男に、命を狙われる覚えなんてないんですけど…っ!!
俺は無我夢中で、走り続けた。
…どれだけ走ったかは分かんないけど、何故か一向に、行き止まりだけは見えてこない…おかしいって、絶対!!どーなってるんだよ、ここ!?
そんな事を考えてて、すっかり忘れてしまってたけど…!
俺は後ろを振り返る。
「…あ…」
もう、居ないや…。そういえば、目も痛くなくなってるし…。
俺はゆっくり立ち止まると、大きく息を吐く。
「─はぁーっ!びっくりした…」
…何だったんだよ、あの人…!?どこ行ったんだ…?
色んな意味で、気になるけど…流石に、戻る勇気はない…。
でも、取り敢えずここを出ない事には、身の安全が保証されないような気がする…。
俺は階段に向かって歩き出す。…少しの間歩いて、俺は気付いた。
ここは、走ると無限に廊下が伸びるだけだけど、歩けばちゃんと階段も現れる。…=ここから抜け出せる!
理屈は分かんないけど、取り敢えず!ここから出られるなら関係ないや!
俺は階段を一段降りて、ふと思い出した。
「─あ、携帯…っ!」
特に意識してなかったから、すっかり忘れてたけど…。さっき窓を見る時に、ベッドに置いたままにしてたの忘れてたよ…。
「……」
戻るの怖いし、別に俺、携帯に依存してないから、このままでも良いんだけどさ…。
…一応、戻るか…。持ってた方が、何かと便利かも知れないし。
…いざとなったら、包帯男に投げたりとかね…。(笑)
─さて!そうと決まったら、早速戻ろう!…アイツに会わないように。
俺はさっきの病室に向かって歩き出す。

  *  *  *

…思いの外、早く戻って来れた。
しかも、アイツには会わなかった!…いや。アイツどころか、誰にも会わなかったけど…。
…でも、俺は今、扉の前で立ち尽くしている。
だって、アイツに会わなかったって事は、この部屋の中で待ち伏せてる可能性あるし!無防備に開けるの、怖いじゃん!?
「……」
…どうしよう…。俺って、馬鹿?
自分でそんな事考えたら、開けるの余計怖くなってきた…。
…あ〜〜〜…!
どうしよう…。
………。
…そうだ!扉ちょっとだけ開けて、中を覗けばいいじゃん!
…よし…!
俺は静かに、少しだけ扉を開ける。
…居ない…よね?
取り敢えず、見渡せる限りは隅まで見たけど…居ないっぽいね!良かった!!
俺は完全に扉を開くと、急いで携帯を手に取る。
…どっかに繋がるかな…?
淡い期待を抱きながら、俺は携帯のディスプレイに目を落とす。
「……」
…分かってたよ!?だって病院だもんね!!そもそも、電話使っちゃいけないよね!!
俺は一人で苦笑する。
あぁぁあぁ─…。
…早くここを出よう!うん、それが一番いいね!!
俺は携帯を握ると、警戒しながら部屋を後にする。
…何せ、何処にアイツが居るか分からない以上、こっちも安心のしようがない。
廊下の死角に神経を張り、細心の注意を払いながら、俺は一段一段、慎重に階段を下りる。
…幸い、包帯男に会わずに無事ロビーまで来ると、ガラス戸で仕切られた世界が見えた。
─世界は、相変わらず人の気配なんて感じさせない…。…でも、それでも…。
「…は…」
安堵の息を漏らしながら、俺は仕切りに近付く。
…開かないんじゃないか?なんていう、一抹の不安を抱きつつ。
けど、ガラスの仕切りは、その不安を一蹴してくれた。
仕切られた世界は、躊躇いなく俺を受け入れてくれた。
…風が、優しく俺を包み込む。それは何だか、母親の様な暖かみがあって、俺は思わず呟く。
「…ただいま」
それと同時に、捕らわれの世界から脱出出来た達成感で、俺の心は小躍りする。
………。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ