Novel.

□悪魔と半魔のプレリュード
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――あの時と同じだと思った。
目を閉じて。横になって。

ただ一つ違うのは、彼の纏う空気が『弱い』ものではないということ。キレイな横顔に広がるのは、苦しそうな顔じゃない。


トリッシュはそっとベッドに腰かけてみた。軋みを感じたように、バージルの瞼がぴくりと動く。

でも、それだけ。
彼の周りに穏やかな空気が流れる。



「…眠る?」



これが、彼が言っていた『眠る』ということなんだろうか。

この島に人間はいない。もしいたとしも、島の魔物達に喰われてしまう。


赤い水を撒き散らし、体を引き裂かれ、手も、足も、頭も、全て喰らい尽くされる。

――生きながら、人間達は喰われている。

それがこの島の人間。


でも、バージルは違う。魔物達に喰われることなく、またその体を赤く染めることなく。
今、トリッシュの前に横たわっている。

もちろん、彼はトリッシュのものだから、他のみんなは手が出せないのだけど。


トリッシュは、バージルの頬を指でなぞった


「おいしいかしら?」



あの子達みたいに。
食べてみたら。



なぞっている指をさらに動かす。顎から喉、心臓へ。


まず、ここ。
みんなはここを刺す。そして、人間を動かなくさせる。


後は好きにしてる。
好きなところから食べる。

彼は、どこがおいしいのかしら?



「目を覚ましたら聞いてみよう」



それに。
彼は私の知らないことをたくさん知っている。それを聞くのも――……?




トリッシュは、ふと、首をかしげた。

こういうの、なんていうのかしら?体の中から、何かが動きだすような感じ。
イイコト?イヤなコト?
イヤな感じではないから、イイコトだとは思うけど。

トリッシュは胸の辺りを押さえ、うーむ、とうなった。
ドキドキと脈打つ高鳴りをなんと呼ぶか、トリッシュは知らない。

早く知りたいわ。



ぴょこんとベッドから立ちあがる。



「だから早く目を覚ましてね」



トリッシュは静かに部屋を出た。
当分、彼は目を覚まさないだろう。一人でいても仕方ない。



「あら、ポチ」



部屋を出ると、すぐ横の壁に黒いものがへばり付いていた。
トリッシュが声をかけると、応えるように赤いものがうっすらと開いた。

ポチと呼ばれたそれは、にゅるんと壁から降りると、黒いもやもやとした霧で猫のような形を作った。



「彼を食べちゃダメよ。私のものなんだから」



ポチは、首を180度にして、きゅる〜と、鳴き声をあげた。
わかったかしら?



「食べちゃダメよ」



もう一度言うと、ポチは姿勢をぴっと正し、きゅ、と短く鳴いた。


「あら、何を持ってるの?」



強い波動をポチから感じた。ポチのものではない、まったく別の力のようなもの。

トリッシュがしゃがみ込むとポチは、ぺ、とそれを吐き出した。


乾いた音と共に足元に転がってきたそれを、トリッシュは拾いあげた。



「何かしら、これ?」


大きさは、手を握ったくらいだろうか。不思議な形をして、表面には模様のようなものがびっしりとついている。
床に落としてみる。特に変化はなく、乾いた音が響くのみ。

壊れない…。
けっこう強いものなのね。


自分に転がってきたそれを、ポチはさらに転がす。



「あなたが見つけたんだから、あなたのものね」



ポチは嬉しそうにそれを追いかけた。ちょっと角ばった形をしてるので、どこに転がっていくかわからない。それがおもしろいらしい。



「外に行きましょ」



トリッシュは、お気に入りの場所に向かって駆けだした。




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