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□卒業
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目が覚めると、彼の瞳の奥のような静かな闇の中だった。

醒めた月あかりが眠る彼の肩や背中を冷ややかに照らすのをしばらくぼんやりと眺めていた。

抱き合って眠りたいなんて、女みたいな甘ったれたことを言うつもりはないけれど、
こんなにきっぱりと背中を向けなくてもいいのに、とも思う。
だからこんな時間に目を覚ましたくないのだ。

現実をつきつけられて泣きたくなる。

忍足と特別な関係になったのは、ちょうど一年前、俺が準レギュラーに昇格した頃だった。
その凶暴な眼差しがええねん、と彼は言った。
誉め言葉とはとても思えなかったが、俺もまたどうしようもなく焦がれていたのだ。
彼のテニスに。彼の容姿に。彼の声に。彼のすべてに。

体を重ねるようになるのに、時間はかからなかった。
好きやと囁かれるたび、歓喜に体がふるえて、夢中で彼の背中に腕を回し、しがみついた。
ただひとりの大切な人と過ごす時間は思いのほか温かく、いとおしかった。
初めて下剋上抜きで人に執着したのが彼だったのだ。

あの頃が一番幸せだった。忍足にとっても自分が「ただひとり」だと信じていたからだ。
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