頂き物
□犬も喰わぬは
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「ただいま。」
先に帰っているであろう人の声が返って来ない。
気配はするが何処か重苦しい。
つい一刻前に見た光景の剣心には非がないというのは、頭では理解出来ているのだが感情がついていかない。
思い出すと腹が立ってしょうがない。
己のなんて浅ましい独占欲か。
相手を自分のものと認識してしまったら、他の者が触れるなんてどんな理由であれ許せないのだから。
恋人も決して例外ではない事に気付かない程、心に嵐が吹き荒れるのだから。
薫は恋人の所在も確かめず、着替える為自室に向かう。
すると、今はならべく顔を合わせたくない当人が立ち塞がっていた。
「あ…」
「帰ったなら、帰ったと何故言わぬ」
初めて聞く責めるような口調に驚き声も出せない。
「何か疚しい事でも?」
何を言われているのか、日本語ではない言葉を浴びているかのようで上手く頭が働かない。
溜息をつきその場を後にする恋人の後ろ姿は、本当に昨夜結ばれた愛しい人の物なのだろうかと思わせる程霞んで見えた。
******
まともに言葉を交わす事もなく朝を迎えた。
「チィーッス!明神弥彦入りまーす!って何だよ薫はまだ寝てやがるのか剣心?」
「道場でござろう」
「道場って…朝飯喰ってねぇのに?」
「……。」
「剣心?」
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「何よ!」
ブンッッ
「あんな言い方しなくても!」
ブンッッ
「私が何をしたって言うのよ!」
ブンッッ
「デレデレと接吻されてたのは剣心じゃない!」
ブンッッ
「剣先が乱れきってるじゃねぇか!」
「弥彦!」
「言いたい事があれば直接剣心に言えよな。」
「だって!」
言わなくてもいいような事を言って仕舞いそうだから。
とか
剣心が怒ってますオーラ出しまくりだから。
とか
どれを言い訳にしても、10歳にしては精神的に大人な弥彦に窘められるのは解りきっている。
「何があったか知らねーけど。手拭いを煮付けにして仕舞う程心乱した剣心を拝めるなんて、薫もやるな!」
「!」
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