企画小説

□遊覧
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「もっと静かになるさ。」

「それはよかった。」

「好きだろ?」

「はい。」


静かな暗闇であなたと歩くこと。

由美はことんっと頭を志々雄の肩に置いた。

いつもは山道のみだけだ。

こうして町までくることが珍しい。

見つかったら何されるかわからない。

それでも志々雄は由美を連れて町で来る。

たまに店などにも入るがそれは本当極まれにだ。


「今日はどこまで歩きます?」

「どこまでがいい?」

「・・・なら、京都を捨てて逃げませんこと?」

「・・・いいぜ。逃げれるんならな」

「貴方が傷つくのを見たくないの。」

「もう少しで終わる。」


だから心配はするな、と笑った。

そんな顔で笑われると信じてしまう。

由美は、ずるいと呟き志々雄から離れた。


「由美?」

「終わったら。子供でも作りましょう
か?」

「なら、俺は由美に似た子がいいぞ。」

「あら?どうしてですか?」

「俺に似てるんだったら、またお前に惚れるだろ?それは勘弁だ」

「子供に嫉妬しなくってもいいのに。」

「それに子供は十分だ。な、宗」


暗闇がゆらいだ。

出てきたのは宗次郎で、顔は笑っていない。

それも珍しい。


「どうしたの?坊や」

「緊急ですよ、志々雄さん。すぐに帰ってきてください。」

「お前がなんとかしろよ。」

「方冶さんが怒ってます。」

「はいはい。」


宗次郎は付いていくように歩き出した。

志々雄は由美の手を引くと熱すぎるその唇で由美のそれを塞いだ。


「帰るぞ。」

「はい。志々雄様。」


3人は闇に消える。

由美はそっと志々雄の着物の裾を掴んだ。


「願わくば」

「?」

「日の下を歩ける日が来るといいですわね」

「なんなら、作ってやるぞ。」


できっこないのに、と二人の会話を聞きながら宗次郎はため息を付いた。











END
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