企画提出物

□ぼくの手をひいて、どこへだって連れていって
1ページ/1ページ



「お、喜三太。」


授業も終わり、いつものようになめさん達と遊んでいると、私服姿の富松先輩に声をかけられた


「はにゃー富松先輩!」


すぐに大好きな先輩へ駆け寄ると、僕よりも一回り大きな手でぐしゃぐしゃと頭を撫でてくれた


「なぁ、喜三太。お前、今日の予定は?」


「今日ですかぁ?」


富松先輩の問いかけにうーんと少しだけ頭を使う
なめさん達のお散歩も終わったし、今日はまだ誰とも遊ぶ約束をしていない


「特に無いでーす!」


笑って答えると、富松先輩もそうかと笑顔で返してくれた


「なら、お使いに付き合ってくれねぇか?さっき学園長先生に捕まっちまって…」


「富松先輩とっ!?」


先輩の言葉に嬉しくなって富松先輩に詰め寄る


「い、嫌か?」


どうしてかわからないけど不安げな先輩へ、頭を思い切り横に振る


「嫌な訳ないじゃないですか!僕、富松先輩とお出かけ出来るの嬉しいですっ!」


「そ、そうか?」


僕の言葉に、まだ少しだけ不安そうに、だけど照れくさそうに富松先輩が笑う


富松先輩が他の人よりも三つ、四つ先の事、それもマイナス方向に物を考えてしまう癖は知ってるけど、僕がこんなに嬉しいのがちゃんと伝わらないの、なんか悔しい


「そうなんですっ!だって僕、富松先輩大好きだもんっ!」


伝わらないなら伝わるまで言わなきゃ!
ジッと先輩の目を見て話す
伝われー伝われーと一生懸命念も込める


「富松先輩、いつも平太とばっかりお使い行くんだもん。僕だって富松先輩とずぅーっとお出かけしたかったのに!だから、すっごくすぅーっごく嬉しいですっ!」


勢いのままに、むぎゅーっと先輩へ抱き付く
ぐりぐりとおでこを押し付けて、伝われー伝われーとまた念を送る


びっくりした声で富松先輩が喜三太喜三太と名前を呼ぶけど、僕が先輩の事大好きなのが伝わるまで離してあげないんだから


「僕、富松先輩大好き!大好きな富松先輩と一緒にお出かけできるのに、嫌な訳ないですよ!だって、富松先輩の事大好きだもん!好き好き大好き!」


「喜三太、あの、わ、わかった。わかったから!その、もう、勘弁して…」


何をだろう?と顔を上げると、真っ赤っかに染まった富松先輩の顔


「あー富松先輩照れてるー!」


「て、照れてねぇよっ!」


「絶対照れてますよぉ!」


「照れてねぇっつの!」


明らかに照れてる富松先輩がぐりぐりと僕の頭を撫でる
僕の気持ちがちゃんと伝わったのと、富松先輩に撫でられたのが嬉しくて、自然と笑顔になった


「こぉら、何笑ってるんだよっ!」


「はにゃっ!富松先輩痛いですー」


先輩を笑った仕返しだ!と笑顔で言う先輩に、両手でぐりぐりとちょっと強めに頭を撫でられながら、僕も笑って抵抗する


一通り笑い合った後


「んじゃ、俺、正門で待ってるから準備してこいな?」


富松先輩の言葉で、先輩と一緒にお出かけできる事を思い出した


「えーっ!」


先輩の言う通りに長屋へ戻り着替えてくると、富松先輩といれる時間が減ってしまう


そんなの嫌だ!
せっかく富松先輩と一緒なのに…
ちょっとでも先輩と一緒にいたい!


「えーじゃねぇっつの!んな格好してたら忍者だって丸わかりじゃねぇか…」


「うー…」


富松先輩の言う事は理解できる
だけど、やっぱり先輩とたくさん一瞬にいたい
何か良い方法はないかなぁと頭を使い、はっと思い付いた


「先輩!先輩!」


「なんだ?」


「忍法!変わり衣の術、ですっ!」


素早く着物を裏返しにして着直す
急いだせいで変な所に腕が入ったり、絡まったりしながらも、頑張って着直す


「先輩!先輩!これで、すぐに出発できますねっ!」


ちょこっと時間はかかったけど、長屋へ戻るよりは断然早い


えへーと富松先輩に笑ってみせると、お前なぁーと呆れたような、でも嬉しそうに先輩も笑い返してくれた


「あ!ちょっと待って下さい!」


「どうした?」


さぁ行くぞと意気込んだ時、僕はなめくじさん達と遊んでいた事に気がついた
慌ててなめくじさん達を集合させ、なめ壷に戻ってもらう


よし!これで準備万端!


「って…喜三太!お前、なめ壷持ってくつもりか?」


「もちろんですよ!」


「あのなぁ…」


「なめさん達、連れてっちゃダメなんですか?」


そんなの可哀想だ
だけどだけど、絶対に富松先輩とのお出かけに行きたい


どうしようどうしようと泣きそうになりながらぐるぐる考えていると、ポンポンと優しく叩かれた


「ダメじゃねぇからそんな顔すんな。」


「富松先輩ぃ…」


「そのかわり!迷子になんねぇように、そいつらへちゃんと言い聞かせとけよ?」


ニッと笑う先輩につられて僕も笑顔になる


「はいっ!」


「よし!じゃあ、行くぞ!」


くるりと正門の方へ富松先輩が体を向けた
僕も慌ててその背中を追いかける


ふと、目線の先に富松先輩の手


そういえば、富松先輩はよく方向音痴で有名な先輩達と手を繋いでるよね…


頭に浮かんだ事柄に、もやっとよくわからない物が胸の中へ
思わず、ぎゅーっと富松先輩の腕へしがみついた


「ど、どうした?喜三太。大丈夫か?」


気分でも悪くなったのかとあわあわする先輩へ首を振る


「富松先輩…あのね?」


「どうした?」


「なめくじさん達は迷子にはならないけど、僕は迷子になっちゃうかもしれないです…だからね!」


僕の言葉に一瞬きょとんと目を丸くさせた先輩


「たくっ…しょうがねぇなぁー」


迷子になられちゃ困ると笑いながら僕の頭を撫でると


「ほら、手!」


キュッと優しく、でも離れないようにしっかりと僕の手を握った
嬉しくなって先輩の顔を見上げて笑うと、先輩も笑い返してくれてますます嬉しくなる


「先輩!先輩!」


「なんだ?」


「僕の手をひいて、どこへだって連れていって!」


大好きな富松先輩が手を握っててくれるなら、どこへだってついて行っちゃいます














***

素敵な企画に参加させて頂いて有難う御座いました!



[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ