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□宝物
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【カグヤ】 九稲零様



 夜も深く、寝間着姿で仙蔵の部屋に喜八郎はやってきた。
 月光を背に佇む姿は朧気で、その明かりに酔いしれた顔。
 仙蔵は時々、月が嫌いになる。





「女装を教えろと?」
「はい。近々、授業があるので……女装が得意な先輩に、手解きいただこうかと」

 だったらなにも、夜に尋ねて来ずとも良いだろう。
 畳に向かい合わせで座った喜八郎を見て、仙蔵はこれはなにかがあると感づく。
 喜八郎が開けっ放しにした戸。そこから見える月は満月。
 喜八郎は月光に酔う。そんな時、心の奥底に潜む魔をさらけ出すときがある。
 月下に騒ぐなどまるで妖だ。

「先輩。女装をしてくださいませんか。観察させてください」
「……別に私がしなくてもよいだろ?お前に化粧を施してやる……」

 仙蔵は立ち上がり、戸を閉めにいくが、それを喜八郎が背後から抱きついて阻止した。

「いいえ。先輩の女装がみたいです」

 何故か断固として譲らない喜八郎は、
嫌に真剣に仙蔵を見つめている。
 仙蔵はふと、振り返った時に出会った瞳に、情欲を見つけた。
 情事の際に喜八郎が持つ、熱に溺れた色。それと同じものが、こちらに向いた瞳の奥にギラついている。

「……喜八郎。今日は随分と、月にあてられたらしいな」
「なんのことです?」
「顔に出ている。……さては女装した私を、抱く気か?」

 喜八郎の肩が跳ねた。他人より分かりづらいほど、小さな動きだったが見抜けない仙蔵ではない。
 どうやら図星をつけたようだ。
 仙蔵は喜八郎に体を向けると、熱を帯びた頬を撫でた。

「いけない子だな、お前は」
「たまには私が先輩を抱いてもよくないですか?」

 喜八郎は抑揚のない口調で言った。

「よくないぞ。それに、なぜ女装なんだ」

 目の前にある首筋に仙蔵は口をあて、軽く歯をたてる。
 尖った歯の先が敏感な肌に触れ、喜八郎は身を震わせる。

「ん……先輩の女装はそこらの美人よりも、見目麗しいです。常々、抱きたいと……!」

 答える喜八郎を余所に、仙蔵は喜八郎の寝間着の紐を外すと、さっとそれを引き剥がして褌一枚にして、畳に押し倒した。

「ほう?女装の私なら、組み敷けると思ったか喜八郎」
「あっ!う……や……」

 褌の布越しに性器を揉まれ、喜八郎は声を上げた。口に手をやり、頬を赤くしてフルフルと左右に首を振る。

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