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□花は一生
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文次郎は、ああまた始まった…と思いながらも、黙ってそれを聞いていた。
ここ数年、仙蔵はこうして落ち込む事がよくある。
歳を重ねて気弱になったのか、精神的に不安定になる事も多いようだった。
しかし文次郎からすれば、仙蔵こそ、あの頃と何一つ変わっていなかった。
確かに肌に張りがなくなったとか、髪の艶が落ちたとか、細かく言えばきりがない。
それでも端麗な顔立ちは一切衰える事無く、今でも化粧をすれば見事なものだった。
女装した仙蔵を連れて歩けば町中の男達が振り返る。
その時に文次郎が感じる、優越感のような、嫉妬心のような複雑な感情も、昔と変わっていなかった。
なので何故そこまで落ち込むのか、到底理解が出来ない。
人は誰でも老いるし衰える。
それでも仙蔵が仙蔵である事に変わりはないし、実際に目を疑うような若さを保てているのだ。
仙蔵の悩みなど、文次郎にとっては取るに足らない事のように思えた。
しかし軽く流すと酷く怒られるので、仙蔵がこういった話を始めた時には、黙って聞いてやるのが決まり事になっている。
それに実のところ、文次郎はこの時間が嫌いではない。
不謹慎だが、寧ろ好んでさえいた。
自信に満ち溢れて高飛車だった若い頃に比べ、今の仙蔵は随分と可愛げがある。
時折すがるような視線をこちらに向け、たどたどしく弱音を吐くのだ。
落ち込んでいる姿にそそられるなんて、口が裂けても言えなかったが、今日もわざとらしく腕を組んだりして、相槌を打つ。
するとふいに、俯き加減の仙蔵の着物からチラリと胸が見え、文次郎はスッと目を細めた。



「……なあ仙蔵」



そのまま細い腰を抱き寄せて帯に手をかけると、仙蔵が驚いたように目線を合わせる。
「おいっ…何を考えている」
文次郎はそれに答えず、手を下へと滑らせると、着物の裾をぐっと捲った。
何をされるのかを悟った仙蔵は、その手をぴしゃりと払い除ける。
「この! 人が落ち込んでいる時によくそんな事が…っ」
「うるせぇな、いつまでも下らねぇ事で悩むなよ」
すっかり気分の昂ってしまった文次郎は、ぶっきらぼうに言うと、今度は顔を寄せてコツンと額を合わせる。
仙蔵は咄嗟に顔を逸らすが、顎を掴まれ、そのまま唇を深く奪われた。
「んぐぅ! ん、ん、んん──…ッ」
文次郎の口付けは強引で荒々しく、食べられでしまうのではないかと錯覚する程だった。
ちゅうっと吸われてから、固く閉じた唇をこじ開けられ、舌を挿入される。
口腔が文次郎の舌で満たされ、苦しさから仙蔵の息が否応なしに上がった。
グチュグチュと喉の奥まで犯されると、ぼうっとして目が朦朧となる。
「なんだよ、そんなうっとりしちゃって」
「……くッ、馬鹿者! 誰がうっとりなんか…ただ苦しいだけだ!」
文次郎の嬉しそうな声が勘に障り、微かに頬を染めた仙蔵は、唇を拭いながらキッと睨みつける。
その間にも尻に手を伸ばされ、やんわりと揉まれると、緊張から背筋がピンと伸びた。
文次郎が一度その気になってしまえば、もう抑えがきかない事を十分に承知している。
仙蔵は渋々髪を耳にかけながら、不機嫌そうに眉を寄せた。
「わかったから…まず風呂に入らせろ」
すると、ぴたりと手を止めた文次郎が尋ねる。
「どのくらい入ってないんだ?」
「……今朝まで任務だったからな、もう三日は入ってない」
潔癖な仙蔵にとって、身体が汚れたままでいるというのは耐え難い状況だった。
今も季節のせいで肌がベタつき、髪が首筋に貼り付くのが不快で堪らない。
すると同時に、何故か文次郎がゴクリと喉を鳴らした。



「三日か…そいつはいいな」



聞こえない程の小さな声で呟くと、いきなり仙蔵の着物を、がばっと左右に開く。
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