アゴ物語

□第3章〜光速の世界へ〜
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ニコニコ出っ歯との若干の絡みのあと、会場入りした耕一は日本代表の枠がなかったため、南極代表として出場することに成功していた。そして、予選を勝ち抜き順調に決勝戦へと駒を進めていた。その間に耕一は自分の身体の変化を認めざるを得なかった。
(何だ!?この全身に湧き上がってくる力は!?今までの腹筋20回前後じゃ感じられないほどの身体の軽さだ!!)
耕一は予選で自己ベストとなる7秒00を出していた。 そして決勝戦は耕一と馬場のタイムが速すぎるため2人でのガチンコ対決となることが予想されていた。決勝戦直前、馬場は耕一の前へと姿を現した。顔には不敵な笑みが。頭には少量の髪の毛が。
「家族は無事なんだろうなぁ!!」と耕一。
「それはこの勝負の後だ。」と馬場は微量の髪の毛をかきあげながら言った。そして、二人はスタートラインへと向かった。あまりにも凛々しい男たちの姿がそこにはあった。長いアゴ、薄い髪の毛。しゃくれvsハゲだ。スターティングブロックに足をかけた耕一は横目でちらっと馬場をみた。馬場は天高く両手の指を掲げ集中力を高めていた。俺は馬場に勝って家族を取り戻すと心に誓った耕一は目を閉じ静かに時を待った。
そして全ての準備が整い会場全体の空気が一瞬だけ完全に止まった。その一瞬の隙をつかれて激しい睡魔に襲われていた耕一はスタートの合図が全く聞こえず出遅れ、すでに馬場とは30bの差ができていた。(あぁ、絶望っ…)と思い泣きそうになりながら馬場の背中を追った。
(俺は何をやっているんだ。こんな情けない思いをするために毎日来る日も来る日も腹筋20回前後も繰り返していたのか……違う!俺が腹筋が2つに割れるほどにやったのは家族を守るためだ。俺はこんなところで敗けられないんだ!勝って家族を取り戻すんだ!!)
完全に自分を取り戻し覚醒した耕一は今までにないほどのダッシュをみせていた。そして、ぐんぐんと差は縮まっていった。25b、20b、15b、30b、10b、さらにあと5bまで差を縮めいた。だがあと5bが詰めれない。
(何なんだ、馬場のこの全身にみなぎっている気迫は。抜かせない何かがこいつにはある。)
そんな時、頭の中にふとダンブルドアの声が聞こえてきた。
(耕一よ、その壁を破るのじゃ。そして、耕一にしか踏みいることのできない世界、光速の世界へと自らをいざなってゆくのじゃ。)

次の瞬間から耕一のリミッターは完全に外れていた。未知の速さだった。風の抵抗が半端じゃない。その抵抗(8Gぐらい)を全て受けきった耕一のアゴはもはや原型をとどめきれていなかったが、耕一は構わず走り続けた。ラスト10bで馬場を完全にとらえた。
(もらった!!!)
馬場を抜き去り勝利を確信したその瞬間、耕一の横を走るサングラスをかけたやたらがたいのいい男を耕一ははっきりとみた。
(松山…なぜ松山?そして、はやっ!?てかアゴいたっ!?俺は松山に敗けるのか?アゴは大丈夫なのか?)
そして、そのまま順位は変わらず耕一は松山に敗れた。会場はどよめきが徐々に大きくなり、耕一の横を不穏な風が吹き抜けていった。
 

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