戦慄と沈黙が走る。
頭が冷える。
身体が震える。
だけど…迷う必要は何一つなかった。
心は…最初から決まっていた。

「…プルート。私は…あの人のいない世界なんて作りたくない。今…その道以外を選ぶ位なら…私は今すぐ死んだ方がマシよ。」




***予知夢と影




目の前の貴方は真っ青で。
腹部には敵の腕が貫通していた。
風の字を持つ貴方が…何故?
敵は…そんなに強大なの?

「ウっ…っ!」

声を出したいのに…声が出ない。
呼びたいのに…呼べない。
貴方に…私は見えていないの?

私の大好きな星は…荒れ果てて…
私の大好きな貴方は…冷たく横たわった。

「困ったな…こんな手に引っ掛かるなんて…こんな姿…見られなくて…よ…か…っ…た…ぐっ…」

「ネ…プ…チュ…ン…あ…い…し…」

スペース・ソードで支えられていた身体が地に落ちる。
綺麗な蒼色の瞳が閉じる。
主を失った星が…崩壊し始める。

「ゃ…いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

目が覚めれば,そこは見慣れた部屋で。
外を見渡せば蒼い蒼い海が広がっている。
ここは自分の部屋である事に気づく。

「はぁ…はぁっ…ゆ…め…?」

「よかった…。」

安心して涙が流れる。
でも…胸を刺す痛みは残っている。

嫌な予感がする…。

枕元に置いてあるディープ・アクアミラーを手に取る。

「ディープ・アクアミラー…教えて…今の夢は…何?」

主の問い掛けに応えるようにディープアクアミラーは輝き出す。
やがて真っ白な光に包まれ,元の姿へと戻る。

「!?」

ミラーを見て,思わず息を呑む。
何故ならミラーには天王星の姿はなく,映ったのはただ真っ黒な球体だったからだ。
風は止み,草木は枯れ果てている。

「これは…!?」

コンコン…キィッ

ふと部屋の扉が開いた。

「ウラヌス!?」

愛しい人を連想させて振り返る。
本当に愛しいから。
この鏡に映る光景も,悪夢も嘘であってほしいと願うから。
だが…その期待は打ち砕かれた。

「お久しぶりです…。ネプチューン。」

緑がかった長い髪の毛に,浅黒の肌。
ガーネットロッドを持った時の番人であった。彼女が訪れてくるということは,ただ事ではない。

「プルート…。」

焦りとパニック状態から,噛み付くように聞く。

「彼は!?ウラヌスは無事なの!?」

「ネプチューン…落ち着いて下さい。…ウラヌスはまだ生きています。」

「よかった…。」

しかし,返答とは裏腹にいつも冷静な彼女の顔が曇る。

「ですが…」

「え…?」

「このままでは…確実に死が待ち受けています。」

死…という言葉がやけに重く聞こえる。
まるで後頭部を鈍器で殴られたような気分だ。

彼が…ウラヌスが…死ぬ…?

理解が出来ない。
頭が理解するのを拒む。
身体から力が抜ける。

「だ…め…いや…いやぁっ…」

「ネプチューン!落ち着いて下さい!彼を助ける方法が…あります!」

「っ…どうすれば…いいの…?」

「…今の現状からお伝えします。今天王星は敵に封印されています。星全体のエナジーごと…。ですが…彼はきっと無傷。おそらく…自分が敵の侵食を受けている事に気づいてないでしょう。」

「え…?」

「敵は強大です。時空の歪みに現れた一瞬で天王星を覆い尽くし,星全体のエナジーを封印すると共に,急速にウラヌスのエナジーを吸い取っていってるのです。きっと彼等の目的は外部太陽系最大の力を持つ彼の抹消…。」

「…。」

「助ける手だては…一つだけ。成功する確率は…万に一つも無いかも知れません。それは,貴女の死を意味する結果になるかも知れません。貴女は…この方法を…選びますか?」

戦慄と沈黙が走る。
頭が冷える。
身体が震える。
だけど…迷う必要は何一つなかった。
心は…最初から決まっていた。

「…プルート。私は…あの人のいない世界なんて作りたくない。今…その道以外を選ぶ位なら…私は今すぐ死んだ方がマシよ。」

「貴女なら…そう言うと思いました…。」

少し残念そうに。
しかし安心したように微笑んだ。

「止めないの?」

余裕の声色で聞けば

「貴女が人の指図を聞くような人ですか?」

と一蹴された。

「それもそうね。」

いつものように冗談を交わす。
知らないうちに明るく振る舞おうとしてしまったのかも知れない。

「時間がありません。急ぎましょう。敵の封印に一瞬穴を空けます。貴女はいつものように天王星へ行って下さい。」

「えぇ。」

「まず彼に接触しバレないようにエナジーを彼に与えて下さい。バレてしまうと彼は絶対に一人でどうにかしようとする。それだけは避けなくては。」

「バレないように?」

「…交わって下さい。」

「え!?///」

プルートは赤くなりつつ続ける。

「不謹慎かも知れませんがそれしか方法はありません。私が敵の侵略を防ぎます。その内に。」

「…えぇ///」

「彼の回復能力に賭けるしかありません。その時間を稼いでください。敵が現れる場所は…R-8。」

「解ったわ。行きましょう。」

「ネプチューン…。」

ふわりと抱きしめられる。
肩には雫が落ちてきた。

「貴女も…大切な仲間なんです。必ず…帰って来て下さい。」

「えぇ。必ず…約束するわ?」

「…それではまた…。」

プルートは振り返ってガーネットロッドを振りかざす。

「またね。大好きよ?」

涙を流し…私は旅立った。





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