返事をする間もなく,彼は走り始めた。
木々や草原が次々と後ろへ流れていく。
「!?…速いっ!!」
「ビックリした?僕は飛翔の戦士。ウラヌス。」
「ウラヌス…。」
「そう。ネプチューン!もうすぐだ!」
*****ずっと一緒に***戦場と思い出
「はぁっ…はぁっ…」
息を切らして走る。
下半身が痛むのに構わず。
ドレスが乱れるのにも構わず。
あと少し…。あと少し…。
身体が痛むのを堪え走りつづけた。
「はぁっ…はぁっ…着いた…。」
血の味が口内に広がる。
足に力が入らない。
そんな疲れ果てた身体を忘れてしまう。
それほどまでに壮大な,美しい風景。
R-8…。
貴方が一番好きな場所。
貴方との思い出が深い場所。
…この星で一番綺麗な場所。
「よりによって…ここなのね。」
ため息が出る。
今からこの景色が壊れてしまうのだから。いや…壊してしまうと言った方が正しいのかも知れない。
「敵は…?」
気配はまだ無い。
風も無い。
さざ波の音も無い。
異常な程に静まり返っている。
「侵食が広まっているのね…。」
ウラヌス…。大丈夫かしら。
つい,そのままにして来てしまった。
…風邪…引かないかしら。
そういえば…あの時も…。
いつでも,どんな時でも,考えるのはあの人の事ばかり。
ふと初めての出会いを思い出す。
***
「迷ってしまったわ…。」
幼い頃,間違えて天皇星に来てしまった事があった。
もちろん今とは比べものにならないほど,知識もなくて。
戦闘経験も少なかった。
「誰か…いないかしら…?」
周りを見渡してもあるのは木々や海。
普段なら人などいるはずもなかった。
「あ!?」
ふと見えた人影。
走っていくと,そこには自分と同じ歳くらいの少年がいた。
…寝てる…。
「あ…あの…。」
「ん…んん…。君は…?」
「起こしてしまってごめんなさい…。道に迷ってしまったの。教えて下さらない?」
「いいよ?どこの星から来たんだい?」
「海王せ…」「ゴホゴホッゲホッ」
「大丈夫!?」
「あ…あぁ…濡れたまま昼寝しちゃったからかな…。はは。ケホ。」
「ちょっとこっちへ来て?」
「え…うん。」
近くを流れる川に走って行き,まじないをかける。
「この水を飲んで?」
「?…うん。ゴホゴホ。」
不思議そうな顔をしながら川の水を飲む彼。
「…咳止まった?」
「!?止まった!凄いね!さっきまで普通の水だったのに!君…もしかして…海王星の人?」
「よかった。えぇ…。ネプチューンって言うの。」
「ネプチューン…か。おいで?ネプチューン。お礼にワープゾーンまで案内するから。」
「ありがとう。」
彼の元へ駆け寄って行くと,急に抱きあげられた。
「キャッ////」
「飛ばすからね。しっかり捕まってて?」
「えぇ///」
「じゃ,行くよ?」
返事をする間もなく,彼は走り始めた。
木々や草原が次々と後ろへ流れていく。
「!?…速いっ!!」
「ビックリした?僕は飛翔の戦士。ウラヌス。」
「ウラヌス…。」
「そう。ネプチューン!もうすぐだ!」
一瞬光に包まれたかと思うと,ワープゾーンにいた。
「ウラヌス…貴方凄いわ。」
「ありがとう。でも僕は君に助けられた。…ありがとう。ネプチューン。海王星はそっちだよ。僕は戻るから。」
「ありがとう…ウラヌス。」
「…」
しばらく沈黙が流れる。
別れてしまうには何だか勿体なくて。
何か他に接点を持ちたくて。
「あのっ」「あのさっ」
「「え!?」」
あまりに合うものだから笑いが込み上げてきたんだったかしら…?
「また…会えるかな?」
言い出したのは…ウラヌス。
でも…思っていたのはもちろん一緒で。
「私も…会いたいわ。もっと貴方を知りたい。」
「よかった。今度,海王星に行くよ。」
「お待ちしてるわ?ありがとう。ウラヌス。またね?」
「バイバイ,ネプチューン。」
***
そういえば…あの時も…あの人風邪引いてたわね。
懐かしい記憶。
たくさん…あったわね。思い出。
今ではあの人が我慢出来ずに海王星に来てしまうのだけれど。
「寂しがり屋なのよね…。」
そんなことを思っていると, 空間が歪みはじめた。
「!?」
…大きい!!
そこに溢れ返るエナジーはあまりにも膨大で,邪悪で。
全身に鳥肌が立った。
急いで距離を取る。
空間の歪みから少しずつ姿を現す敵。
次第に姿は明確になっていき,やがて完全に見えるようになった。
静かに口を開く。
「お前が…飛翔の戦士か?おかしいな…男だと聞いていたんだが。」
一言でピンときた。
彼等には情報が少ない。
これは…チャンスかも知れない。
「あら?力任せに乗り込んできたと言うのかしら?残念ね。飛翔の戦士は…私よ!!」
「ふん…まぁ関係ない。この星共々消してやる。どうせお前のエナジーは無いだろう?」
「出来るものならやってご覧なさい!ディープ・サブマージ!!」
…やったか!?
砂煙の向こうには余裕な表情で立っている奴が見えた。
「ほう…驚いた。お前まだエナジーがあったのか。」
傷一つ負っていない!?
「ぐっ…ぁっ!!」
息を付いたのもつかの間。
相手の拳が腹部へと直撃していた。
勢い余って近くの岩へと弾かれる。
「っ…!!!」
「飛翔の戦士か…。お前がその程度なら…案外この太陽系なんて簡単に支配できるのかもな!!」
「…っく…わ…私を倒してからそんな戯れ事を言いなさいっ。」
私は…負けるわけにはいかないの。
絶対にっ…コイツはここで…倒す!!
時間を稼ぐため…
いや…あの人を護るために…!!
"タリスマンよ…っ!力を…貸してっ!"
「私も…本気で行かせていただくわ?」
「ほう…痩せ我慢がどこまで続くかな?」
ウラヌス…待っていて頂戴?
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