short story

□キッカケ
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何処にも液体が出そうな所は無い。
きょとんとしていると,エルザが笑いをこらえていた。

「みちるッ…初めて?」

「え…えぇ…。自動販売機…?というもの使った事無いのよ…。」

「じゃ!行こう!続きはそれから!」

「え!?何処に!?」

「決まってるじゃない!自販機!」

力強く腕を引かれ,つられて駆け出した。
誰もいないしんとした廊下に二人の走る音が響いている。朝の涼しい風が頬を掠める。

朝ってこんなに気持ちよかったのね?
知らなかったわ…?
そう思えるのは…,隣にエルザがいるから…?
…この風…懐かしい。

ふと私の頭の中に前世の記憶が流れた。
レオタードに身を包む長身の身体に私の手を引く温かな体温。
風になびく短髪でブロンドの綺麗な髪…。
貴女は…。

「ほら!みちる!着いたよ!コレ入れて!」

「あ…。」

エルザに呼ばれて我に返った。
まだ頭の中はボーっとしている。

さっきのは…。

「みちる…?」

エルザは放心状態とも言えたような私の顔を怪訝そうに覗き込み,お金を渡してくれた。
そのお金をしっかりと握り締める。

「今…とても懐かしい記憶が…。遠い…遠い…昔の記憶。」

手を緩めて,投入口からコインを入れる。

「…?」

「腕を引かれて…走ってたの。まるで風のように。今さっきまでの…エルザと私みたいに。」

「誰と…?」

エルザは私の手を取りここを押せと言わんばかりにボタンに私の指の先を重ねた。私はされるがままにボタンを押す。押した瞬間にゴトリと言う音がして,紙パックのイチゴみるくが落ちてきた。

「長身で短いブロンドの髪の持ち主…。」
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