short story
□恋人
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「ああッ!くそッ!」
ガッ
押さえきれなくなった苛立ちを,壁にぶちまける。
─────恋人
僕は今日,マシンの調整の日。
君は今日,エルザ・グレイとデートの日。
「一人で大丈夫?」
と心配した僕に君は,
「大丈夫に決まってるじゃない♪」
と笑顔で言った。
ねぇ…みちる…その笑顔が危ないんだよ?
キラキラと輝く宝石のような君の笑顔。
はぁ…
君は自覚無いけれど。
君は最近また一段と可愛くなった。
仕草の一つ一つが優雅で,綺麗。
端正な容姿に,輝くエメラルドグリーンの髪と,瞳。
それから…笑顔。
よく笑うようになって,感情も表すようになった。
嬉しいけど気にくわない。
僕だけのみちる…。
誰にも見せたくない…。
きっと可愛すぎる君は他の男を釘付けにする。
それから,エルザ・グレイはいつもみちるにベッタベタだし…。
僕に敵対心持ってるの丸分かりだし…。
街中で君に向けられるあの視線。
君の隣にいるエルザ・グレイ。
エルザ・グレイに笑い掛ける君。
みちるは…みちるの隣は…みちるの笑顔は
僕だけのモノなのに…!!
「ああッ!くそッ!」
ガッ
押さえきれなくなった苛立ちを,壁にぶちまける。蹴りつけた壁を見ても苛立ちは治まるワケなくて…。
「はぁ…。」
一人溜め息をついた。
今から走るのに…風を感じるのに…。
気が気じゃない。
「気になる…。」
いつもは嬉しいはずのサーキットでの時間も,
今はただ長過ぎるばかり。
「時間…早く…経てよ…。」
そんなはるかの祈りも虚しく,
エルザとみちるの1日はまだまだ続くのだった。
end