ある夏の日の…








「あち〜……」
「圭ちゃんさっきからそれしか言ってないよ」

今日の最高温度は35度だそうで。朝からむしあついなとは思っていたが、これほどまでとは。
雛見沢に来てからこんなに暑いのとは無縁だと思っていたんだがな。
手をうちわがわりにしてあおぐか、大して涼しくない。扇風機もないしな。
クーラーなんて都会の学校にはあるんだろうが、ここにはない、もちろん。
うちにだってねえんだからな。

「ほんと、暑いよねえ。もうすぐ9月だっていうのに」
「みー。圭一が一番暑そうなのです。男の子は夏でもズボンだから大変大変かわいそかわいそなのですー」
「まあ、だからといって脱がれても困りますけどねえ」
「なんだ沙都子、俺に脱いでほしいのか?」
「な、なななにを言ってるんですの!不埒ですけべで最低ですわ!」

真っ赤になる思春期に入ったばかりの少女は、手加減なしで俺の頭をたたく。結構痛い。
こいつも近いうちにレナみたいになるかもしれない。レナパンチが一番痛いいまのところ。

そんなこんな騒いでいたら、知恵先生に怒鳴られた。あ、いけない、今は授業中だ。
みんな顔を見合わせて、笑った。反省?してますよ。ええもちろん。








「やあ元気かい。夏ばてで倒れたレナさん」
「はうう〜……。なんかキャラが変だよ圭一くん」
「はっきり気持ち悪いって言ってもいいよ、レナ」
「なんだ魅音。おじさんキャラのお前に言われたくないな」

セミの鳴き声がよく聞こえる。校庭で遊ぶ下級生たちの楽しそうな声も。窓が全部全開だからな。
ときおり入る涼しい風が心地よい。
保健室で寝ているのはレナだけだ。夏ばて?で具合が悪いらしい。魅音がタオルでレナの汗をぬぐった。

こういう日こそ部活で水鉄砲大会なんかやっておもいっきり遊ぶのもいいんだけどな。
レナが元気になったらやりたい。そんなことを密かに思った。
炎天下のなか、水をあびるのは気持ちがいいだろう。

「早く元気になれよ、したらみんなで部活しような」

色素の薄い猫の毛みたいに柔らかい髪を丁寧に撫でる。気持ちよさそうにレナは目を閉じて、うんと答えた。
その姿は本当に猫のようで、微笑ましくなる。

「圭一くんが言うなら、早く元気にならなきゃ、ね」
「おう。待ってるぞ」
「あー、おあついことおあついこと!なーにさ二人で見つめあちゃって!おじさんの存在忘れないでよー」

魅音がわざとらしく頬をふくらませる。

「なにが、おあついだ。馬鹿か」
「やだー、何照れてるの圭ちゃん?」
「照れてねーって!」

「レナさーん、具合のほう大丈夫ですの?」
「みー。お見舞いにきたのですよー」

ちょうどいいタイミングで沙都子と梨花ちゃんが入ってきた。

「二人ともきてくれてありがとう。まだちょっと具合悪いけど、大丈夫だよ」

いやいや大丈夫じゃないだろ。顔は青白いし。
二人に心配かけたくないのか、にっこりと笑って。

「このとおり、レナはまだ元気でもないし大丈夫でもないんだ。お前ら騒いでレナの迷惑になるなよ」
「なにが迷惑なんですのー?一番うるさいのはいっつも圭一さんじゃありませんか」
「ほー。言うようになったじゃないかさーとーこー」
「ちょ、ちょっと二人とも喧嘩はだめだよ、だよ…?」
「レナに注意されてどうするのよ二人とも…」





四人分の椅子をあつめて、俺たちはレナを囲むようにして座った。
レナの負担にならないように、注意をはらいながら話をする。
知らないうちに外はだいぶ涼しくなり、もう夕方になっていた。

「んー、やっと涼しくなったね」
「そうですわねえ」
「あ、そうだ。言おうと思ってたんだけどさ、」

今思い出した。そうだそうだ、また暑くなったら水鉄砲で遊ぼうって思ってたんだ。

「明日、レナの具合もよくなってたら、外で水鉄砲で遊ばないか?」
「水鉄砲ー?いいね、前にもやったよね。みんなで」
「え、やりましたっけ?」
「あ、あれ…やらなかったけ」
「やったようなやらなかったような…んー、どっちだったけ」
「確かにやりましたですよ。今の4人が知らないところで」
「私たちが知らないところ…?」
「な、なんだそれ…不気味だな」
「不気味なんかじゃないのですよ。大切な大切な思い出なのです、僕はおぼえてるのですよ、にぱー☆」
「……?ま、とりあえず。明日はそれでいこうか!みんな汚れても濡れても平気な体育着でね」
「うん。でも圭一くん、なんで水鉄砲なんて思いついたの?
「え、それは……」
「あー!分かった!水で透けるからでしょ!」
「は、はあ?」
「女の子の下着は水で透けるからねー、それ見たさに…」
「ば、ち、ちげえよ!誰がそんなこと考えるかっつーの!」

ひどい濡れ衣だ。本当にそんなことは考えていない。

「あやしいですわー。やっぱり変態です圭一さんは!」
「恐い恐いのですー。」
「け、圭一くん……」
「あ、あああ違う!断じて違う!レナは信じてくれるよな、な?!」
「………」
「ほら黙っちゃったじゃーん」
「レナ…」
「あはは」
「あはは…」


それから変態だの不埒だのすけべだのなんだのひどい言葉を3人に浴びせられた。
ああ、レナは入ってないぞ。レナはそんなやつじゃないからな!





「あんなに保健室でさわいで、ごめんなレナ」
「ううん。そんなことないよ、楽しかったもん。明日の部活楽しみだね」
「おう!……いやほんと、変なこと考えてる訳じゃないぞ?」

変なこととはもちろん、さっきのことだ。本当に、本当に、違うのに、レナと二人きりで
夜の道を歩いてると…その、ちょっとそんなこと考えてしまう。
そんなこと悟られたくなくて、ふいっと横を向いた。今レナの顔をみたら、きっと…。

「大丈夫、分かってるよ。圭一くんはそんなこと考えないもん…ね?」
「お、おう!もちろんだ。俺はみんなで楽しくぱーっとやれたらいいなって思ってるだけで」

そっかってふふっと笑うレナ。レナはいつもそうだ。こう、甘い、猫のような声で話す。
その声を今聞くと、安心したり、同時に、胸がきゅうってなる。

「ねえ圭一くん。レナ明日必ず具合よくなるから、ね」
「分かった。でも無理はだめだぞ?」
「無理してでもやりたいな、部活」
「だーめ。具合がよくなってたらだぞ、必ず」
「ふふ、はーい」

素直で柔らかい笑顔と目があった。

「心配してくれてありがとう、圭一くん」
「そんなの、部活メンバーとして当然なことだからな、気にするな」
「部活メンバーとして……やっぱり無理してでもやりたい、かな、かな」
「だめだって。ちゃんとよくしてからじゃなくちゃ、」
「だってそうすれば圭一くん、私のこと心配してくれるでしょ?」
「へ?」
「部活メンバーとしてでも。私、圭一くんが心配してくれたこと、嬉しかったの」
「……?ま、まあレナが途中でぶったおれたりしたらお姫様抱っこで保健室まで連れてってやるよ!」
「お姫様だっこ……。本当に?」
「おう!まるで白馬に乗った王子のように!」
「あはは、面白いな圭一くんは。本当にそうしてくれたら……………なんだろうね」



そのあとの言葉は聞き取れなかった。5分くらい今日のことを話しながら、レナと別れた。
しかしレナってば変なやつだな。心配されて嬉しい?
そんなの当然だろう。だって大切な仲間、部活メンバーなんだからな。

でも俺はもっと変だ。大切な仲間だから、心配してるってだけなはずなのに。

じゃあなんだこの胸の高鳴りは。
あの言葉がひっかかっては、走り出したい気持ちになる。急に恥ずかしくなってしょうがなかった。

なんだこれ。


なあ、レナ。お前はさっき何を言ったんだ?

明日聞こう。そうすればきっとこのよくわからない気持ちもすっきりするだろう。


明日、レナの具合がよくなってればいいな。
ああ、でも、

具合悪くて倒れたら俺が……なんてな。










あとがき

圭一気持ち悪いななんか(笑)
前に書いたSSが圭一に振り回されて照れるレナだったので、今回は逆にヘタレな圭一をと思ったらこんなのに。
水鉄砲のあたりは、この世界ではどうやらやったことないようですってことで。
前半で3人がだせてよかったなと自己満足。

(20090427)

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