捧げもの

□12日木曜日
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『12日木曜日』
本日は木曜日。天気は晴れ。
休日まであと2日。今日と明日さえ頑張れば待っているのは骨休み。私も年頃の女の子みたいに遊びたいな。
でも・・・本当は主任と・・・デートとか、したいな。
私は都心から少し離れたところにあるホームセンター勤務の下川美由紀。ぴちぴちの25歳!ホラー映画とか大好きです。あと、最近同じ職場の森下主任が気になってます。
さて今日もいろいろなお客さんを相手に頑張りますか。

DIY用電気製品コーナーでいつものように商品のチェックをしていると、きょろきょろとあたりを見回しながらこちらに近付いてくる女性をみつけた。
ホームセンターに似つかわない白いフレアスカートに緑のタンクトップがかわいらしい。
(主任も、あんな格好が好きなのかな・・・って仕事仕事!)
美由紀はチェック表を小脇に抱えると女性の下へと歩み寄った。
「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」
女性は声を掛けられたことに少し驚いたようだった。
「あ、はい・・・チェーンソーを探しています」
珍しいものが欲しいのだなと思いながらも、美由紀は商品の元へと案内をした。
斧やのこぎりの中に混じってチェーンソーがあるため、確かに見つけにくかったことだろう。
「どのようなものを探しているんですか?」
「木を切ったりする大型のものが欲しいのです」
「大型ですか・・・それですと下のほうの棚が大型用ですが、ちょっと重いかもしれませんよ」
展示見本を持つとそっと彼女に渡す。その女性は苦も無く軽々と持つと全体を眺める。
「ええ、このくらいなら大丈夫ですわ」
「それが一番軽い奴ですね、ただちょっとパワーも少ないんですけどね。もう少し重いものならもっとパワーがありますがどうしますか?」
「そうですね。そちらも見せてください」
その後も女性は何点かを検分し、結局少し重いがパワーのあるものを選んで買っていった。

「毎度ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ選んでもらってすみません」
レジで商品を梱包しながら2人は雑談を交わす。
「それにしてもチェーンソーを何に使われるのですか?」
「ええ、女性が買われるなんて珍しいですよね。実は私高校の教師をしていまして、それで明日から学生と一緒に山にキャンプに行くのですよ」
「それはいいですね。テントなど自分たちで張るのですか?」
主任とキャンプなんて素敵だなと美由紀は夢想する。
「いえ、ログハウスなんですよ。最近の学生は贅沢ですよね」
「まったくですね」
女性は黒い財布からピン札を何枚か取り出すと渡してきた。美由紀はレジに金額を打ち込むと、釣り銭を女性へと返す。
「それでせっかくの機会なのですから、こうしてチェーンソーを買いに来たのです」
「そうなんですか、ではスポーツ店にはもういかれましたか?」
「はいもちろん。ただアイスホッケーの仮面なんてそう売っていなくて結局ネットで取り寄せました。ちょっと高かったですけどいいものが手に入りましたよ」
「よかったですね。それでは頑張ってください」
「ありがとうございます。良ければ今度一緒に映画でもどうですか?面白そうな新作があるんですけど」
「もしかしてあの虫がいっぱい出てくる奴ですか?私もぜひ見たいと思っていたのですよ」
二人はしばらく映画について語り合ってから別れた。
美由紀は去りゆく女性の背中をしばらく見つめた後、再び仕事に戻った。

「美由紀くん、なんか機嫌がよさそうだね」
そんな美由紀に声をかけてきたのは、憧れの森下主任だった。
「実は同じ趣味のお客さんがいて、今度一緒に映画を見に行くことになったんですよ」
「そうなんだ。美由紀君映画が好きなんだ。だったら今度僕とも一緒に行かない?無料ペアチケット貰ったんだけど、一緒にいってくれる相手がいなくてさ・・・」
そう少し恥ずかしそうにしながら森下主任は美由紀を誘う。
「は、はい!もちろん行きます。私映画好きなんですよ」
全力でもって美由紀はそれに答えた。森下はその様子ににこりと微笑んだ。
「そんなに喜んでくれて嬉しいよ。じゃあ、仕事頑張ってね」
そう言うと森下はゆっくりと去っていった。
その背中姿に美由紀はガッツポーズをする。


私の名前は下川美由紀。ホームセンター勤務の25歳☆
憧れの森下主任と一緒に映画を見に行く予定ゲットしたし、同じ趣味の友人までゲットしたし良い事尽くめ!
こんな幸せでもいいのなか?
でもとりあえずは幸せだからいいや。人生なるようになるでしょう。
恋に仕事に友情に私、頑張ります!!

そういえば名前聞かなかったけど、彼女がうまく出来ること応援してます。
13日金曜日はロマンだよね♪
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