捧げもの

□恋するお菓子
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その日もいつものように日が昇り、いつものように小さな騒動大きな事件をやり過ごし、いつものように昼食となった。
そしていつものように賄いに舌鼓を打っていると、急に煙が立ち昇った。
「うわっ」
「なんだこれ!?」
「あれ、オレ何か入れたかな」
突然視界を奪われて人々が騒ぎ立てる中、セバスチャンはまるで見えているかのようにまっすぐに窓へと歩き夜と、勢いよく開け放った。
風が部屋の中を吹き渡り、煙は徐々に薄れていく。
そして薄れるとともに机の上にいる何者かの姿があらわになっていった。
ーハハハ 今日こそオレの勝ちだ
高笑いが部屋の中に響き渡る。
「ヘイヂ?」
そう、その正体は!謎の生き物が跋扈する百鬼夜行も真っ青のフランク○ルトでも一・二を争う謎の生物!その名もヘイヂ!!
ーこのオレ特製の若返り薬(改良済)で、今再びお前は無力な幼児へと・・・
「まだこりてなかったのかよ」
びしっと効果音つきで指差したその先はいつもよりも不機嫌そうに窓辺に佇む最強執事の姿があった。
ーあ、あれ?失敗か
セバスチャンは疑問に答えるかのように右の方を指差した。
ヘイヂはおとなしくセバスチャンの指先を視線でたどる。
順番にヨハン、デイビット・・・テーブルのふちから微かに覗く銀色の何か・・・セバスチャンの指は確かにそれをさしていた。
「デイビット」
「はいよ」
名を呼ばれただけでわかったのか、デイビットは隣の席からそれを持ち上げると自分の膝に乗せた。
それは5・6歳の男の子だった。
金属のような硬い光沢を放ちながらも柔らかな銀髪。そしてその隙間から覗くのは気の強そうな瞳だが、驚いているのかどこか不安そうに硬直している。
そして服は明らかにサイズの合っていないスーツだ。使用人用のそれを着ている様はまるで背伸びをしているかのようで大変可愛らしい。
ーなぜだ・・・なぜBが?確かにオレはセバスチャンの皿に一服盛ったのに
セバスチャンはうちひしがれるヘイヂに近づくと頭を掴み持ち上げた。
「ちなみにオレの皿と判断した理由は?」
ー一番寮が多かった
そう即答した瞬間、ヘイヂの頭がセバスチャンの指の形に陥没した。
ーぐおおおお
そんな悲鳴をあげるヘイヂの後ろで、Bを膝にのせたデイビットが呑気に言う。
「ああ、今日の鶏肉の卵とじはB君の好物だから大盛りにしといたんだ」
ーくそっ、オレとしたことがそんな簡単なミスを!次こそは・・・
「次こそは?」
悪魔のような声が部屋の体感温度を下げる。
「次をたくらむどころか、解毒剤を作らなければ明日はないぞ」
ー・・・・・ぐひゃ
沈黙を決め込んだヘイヂの頭にさらに指が食い込んだ。
そんな大事件で本日の昼食は大して手をつけられないまま終わった。人々は満たされない腹をかかえ、3時へと希望を持ち仕事へと就くのであった。

そしてヘイヂの悪戯によって小さくなったBは・・・
「どうせいつも一緒にいるのだから、お前が面倒をみろ」
とのセバスチャンの一言でBの恋人であるデイビットが世話をすることになり、こうして行儀悪くキッチンの机の上に座ってデイビットの働くさまを見ているのであった。
なぜ机の上かというと、そちらの方がデイビットの眼が届きやすいからだった。いすの上だと角度によっては頭しか見えなくなってしまう。
普段働いている時間にただ何もせずぼけっとしいるというのもなかなか居心地が悪く、皮むきなど簡単な下ごしらえのお手伝いをしている。時々デイビットが不安そうな目つきでBの手元を振り返る。
だが、見た目は子供中身は大人。慣れた手つきで次々とジャガイモの皮をむき終わっていく。やがて今日の分の下ごしらえはすべて終わってしまった。
「終わりましたけど、次は何しますか?」
普段よりも高い声が聞こえる。どこか舌足らずにも聞こえてつい笑みがこぼれそうになる。
「そうだな、今は特に・・・そういえば」
デイビットはかき混ぜていた鍋から離れると、指についたミートソースをなめ取りながら人間が4人ほど余裕で入りそうな業務用冷蔵庫へと向かった。
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