捧げもの

□白衣の魔王
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Bは陸上部の活動中に、うっかりハードルに足を引っ掛けてしまい転倒した。
「だ、大丈夫か?」
同じく陸上部に所属する友人のAが駆け寄ってきた。
「大丈夫・・・ぐ」
心配させまいと立ち上がろうとしたが、右足に激しい痛みが走りしゃがみこんでしまう。
「ケガしてるのか」
AはBの横にひざまずくと心配そうに顔を覗き込んだ。
Bは返事もなくただ右足首を抑えていた。

異常を察した陸上部顧問のセバスチャンがやや小走りで近寄ってきた。
「見せてみろ」
セバスはBの脇にひざまずくと、Bの靴を脱がした。
Bの足は靴下の上からはっきりとわかるほどに腫れていた。
「ねんざか?B立てるか」
Bはセバスの手を借りてどうにか立ち上がるが、支え無しでは立っていられなかった。

セバスはそんなBの様子を見とり、マネージャのツネッテを呼び寄せた。
「保健室に連れて行ってやれ」
「はい、わかりました」
「あ、あの俺も着いて行っても良いですか?」
Aが心配そうに言うのを、セバスは簡単な言葉で許可する。
「いいぞ。もう終わりの時間だし、戻ってこなくても良いからな」
こうして3人は保健室へと向かうことになった。AはBに肩を貸してやり、ツネッテはBの荷物を持って保健室に向かった。





「失礼しまーす」
簡単なノックの後、返事も待たずにAは白い扉を開けた。
そこは7怪談のひとつとして、生徒の間に長く語りつかれている「白衣を着た魔王」の住処である保健室だ。保健室が怪談に入るのはわかるが、なぜ保険医が怪談になっているのかは、まだ1年生の3人は知らない。
そして今その謎のひとつが3人の前に現われた。

「いらっしゃい、どうしたの」
魔王ことドイツ出身の保険医、ユーゼフがいすに座ったままにこやかに出迎える。
「Bが右足を捻挫したみたいなんですけど・・・」
「ふーん、B君そこの椅子に腰掛けて」
ユーゼフは自分の前にある丸椅子をBに進める。

そしてAとツネッテをもうすぐ暗くなるという理由で先に帰らせた。
「じゃーな」
「お大事にね」
正直7怪談の主と2人限になるのはいやだったが、ここでそんなことを言うのは女々しいなと思いとどまった。
ユーゼフは入り口で2人を見送った後、ゆっくりと扉を閉めた。
扉が閉まる音にBはうなじの毛を逆立てる。
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