紫電一閃 弐
□57. 絶界戦争
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篝火が燈った部屋。
膝を付きあわせた四人は、口を割るであろう人物が戻ってくるのを待っていた。
祇園料亭の別宅。菖蒲には席を外してもらい、一階の客間にて爛を待つ茜凪、烏丸、狛神、そして水無月。
先程、伏見にある奉行所から戻り、着替えに行った爛の帰りを待っているところであった。
烏丸 爛。
烏丸 凛の兄であり、一族で天才と呼ばれるに等しい実力を兼ね備えながらも次期頭領の器ではないと里を出て行ったっきり、風来坊として各地を転々としている男。
そんな男が気になり、調べていたのが正しく妖の羅刹のことであった。
進展があったということで奉行所から素直については来たものの、一体何から語るというのか。
そして、この話は新選組には知らせるべきだったのではないか。と弟はどうしても思えてならなかった。なぜならば、今までもこうして巻き込まれてきた彼らには、いつか狛神が烏丸に言ったように、知る権利があるのではないかと思ったからだ。
「悪い、待たせたな」
「爛……」
障子をあけ、現れた体格のいい男に誰もが顔をあげた。
いつもは飄々とした空気を持ち、弟以上に掴みどころのない雰囲気だが、こうも真剣みを出されると兄の方がやはりしっかりして見える。
「あ〜どっこいしょ」
声をあげて腰掛けた男に狛神が盛大に溜息をつきながら、悪態で口を開いた。
「さっさと教えろよ。進展あったんだろ」
「まぁまぁ、そう焦りなさんな。まず俺はお前から自己紹介すらされてねぇぞ。狛神 琥珀くん?」
「知ってんなら問題ないだろ。烏丸 爛」
「それも正論か。大方、凛に聞いてんだろうしな」
「そりゃまぁ、京に来て行動を寝食共にしてんだから簡単には教えたけど……」
そんな軽い感じでいいのか、と弟は思いながら苦笑い。
隣で聞いていた水無月はお茶を啜りながら笑う。
「爛はいつもこんな感じで適当ですから。早く本題に入りましょう」
「だな。そろそろ余興はやめにしないと、さっきから殺気出してる女に殺されそうで怖いぜ」
一番真剣に俯き、一言も言葉を発しない娘に狛神が噛みつく。そんな嫌味も余所に、茜凪は顔をあげ、真っ直ぐに爛を見つめた。
「いいねェ。その眼。相変わらず惚れ直しそうなくらい、いい眼だ」
「くだらないこと言ってないで早く話してください」
これから話されることは、きっとこれから自分たちがどう行動していくかということに関わるはず。
無駄にはしない、小鞠の死を無駄死になんてさせるもんか。
翡翠の瞳にはこの物語の真実を解き明かすという決意が宿っていた。
第五十七片
絶界戦争
ゆらゆらと行燈の火が揺れる中、爛はにやりとあげた口角をそのままにゆっくりと口を開いた。
「“絶界戦争”」
音を発し、告げられた言葉は何度か耳にしたことがある単語。そこにいた誰もが反応を示す。
「伊達に俺たち妖って呼ばれてる人生を生きてるわけじゃない。一度くらいは聞いたことあるだろ」
「あぁ……」
「妖界において歴史上最悪な妖同士の戦争……」
「人間も多少絡んではいたが、まぁそんなとこだな」
今から何十年か前。
妖同士での権力、武力争いが勃発していた時代があった。
妖は本来、憎悪を持ち力を発揮し、初めて妖と呼ばれる真価を発揮してる。鬼を守るために与えられる障害を壊し役目を果たすためにある存在。
そんな妖同士が起こした歴史に残る全種族の妖を巻き込んだと言っても過言ではない戦いが“絶界戦争”だった。
「俺や綴、それからお前らが知ってるところでいうと茜凪の兄である環那、藍人の姉である旭が参加した戦争でもある」
「爛、北見 旭のこと知ってるの……?」
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