紫電一閃 弐

□56. 境界線
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「なんだよアイツ。忠告してやったのに、まだ一緒にいるのか」



伏見奉行所に妖の羅刹が侵入した。


斎藤や原田が狙われる場面があったが、間一髪で間に合った茜凪と四国の天狗の里からやってきた烏丸の兄・爛のおかげで窮地は逃れることとなる。


茜凪を追って奉行所まで駆けつけた烏丸と狛神も集い、妖の面々は爛との再会に驚いている。


そして、爛が京までやってきた理由を口に述べた時、妖たちは表情を変えるのであった……。


そんな光景を、奉行所の前をたまたま通りかかっていたもう一人の妖が見ていた。名を北見 旭という。


屋根を飛び飛びで移動していた男装している彼女もどうやら爛の姿を目に留め、驚いた顔を一瞬していた。顔見知りのようである。


しかし、旭はどちらかというと爛の存在にではなく、斎藤と茜凪が並んで立ち尽くしているのを見て、言葉を吐き出したようだった。



「何にもわかってねぇんだな……」



妖と人は交わっていいものではない。譲ったとしても、それは下等な妖であるならば許してやってもいい。だが、茜凪は違うのだ。


だけれど、旭も理解はしていた。


お互いが好き合っているのであれば、離れることは出来ないであろうと。離れようとも、そして寄り添おうともしない中途半端な関係になることも。


それを理解できた理由は、旭も好いた男がいたからだ。


人ではなく、妖であったけれど。


誰の手にも落ちることなく、彼女と同じ……頂点に君臨し続けた男を慕っていたからこそ。妖である旭にですら届かなかった血を持つ妖だからこそ。


どこか斎藤と茜凪の関係は妬ましくもあり、同時に心配でもあり、己の二の舞にならぬようにと思っているところがあった。



「狐は……誰にも届かない存在だ」



それは、彼女の兄がそうであったように。



「そうだろ……環那……――」





第五十六片
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雪がまた降り出した。


夜も更け、奉行所から見える風景は一体が真っ白へと姿を変えていく。ここから見える風景には随分と慣れたが、逆を言えば白くない景色をもう一度見てみたいと思う程だった。


奉行所から去るために当たり前のような顔をして廊下を歩く爛を引きとめた土方は説明を求めていたが、弟よりも飄々としていて――尚且つ強者であるが故か、こちらの兄は計算高く――掴みどころもなく頑固だったので引き止めることだけで精いっぱいな状況であった。



「待てお前!説明しやがれ!」


「説明すべきこととなんて何もないって」


「ふざけるな……!妖の羅刹の続報があるって言っただろうが……!」


「それって、人間であるお前らには関係ないことだろ?」





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