薄桜鬼 弐

□48. 乱戦乱舞
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「やめて、戦わないで……ッ!」



新選組の幹部として生成されてしまった影の軍団。


それらと対峙し、剣を振るい、勝利を掴むために駆け出した妖。


叫びをあげたのは菖蒲だった。



「そのままじゃ死んじゃう……ッ」



交差した想いは、どれだけ残されていたのか。


それぞれの想いが各々の行動を生み出して、所々交わって進んでいくのに、全部が重なり合うわけではなくて。


痛みと悲しみがまだ続かなければならない状況で、取り残される菖蒲の叫びは辺り一面に響き続けた。



「茜凪……ッ、あんたは……」



傷付いて立てない足、ボロボロの手。
だけど前をむいて戦い続ける彼女たちに比べたらどうってことなくて。



「あんたは、藍人くんのことが好きなんじゃないの……?」


「…」


「だから、必死に戦い続けてたんでしょ……?」



―――なのに、わたしの幸せを願ってたなんて……どうして……。



地面に食い込んだ指先をみて、水無月が小さく溜息をついた。


菖蒲の前に膝をついて、告げる。



「菖蒲、それは勘違いです」


「え……?」


「茜凪は藍人を恋慕ってなどいませんよ」



脳内で騒音を掻き鳴らすものを留め、藍人は顔をこちらに向けた。


状況が状況なので涙を流し、言葉を発しなくなった七緒も、彼らの言葉に耳を傾ける。



「茜凪は、貴女のことを本当に大切に思っています。藍人と同じくらい」


「…っ」


「彼女が戦い続けられた理由の中に、貴女の存在は大きいはずです」



着流しの裾を静かに翻し、水無月も参戦の意を示す。
その男の姿を、菖蒲は静かに見つめていた。



「雪村さん、菖蒲をお願いできますか?」


「は、はい…!」


「菖蒲」



千鶴に菖蒲を託した後、水無月は半面を振りかえらせ、笑った。
どんな時よりも、優しい笑みで。



「この戦に勝てるのであれば、私の本心を貴女に告げます」


「水無月……っ?」


「勝てるならば、もう内に留める必要もない」



風が吹く。
夜明けまであと半刻を過ぎようとしていた。
生まれ来る黎明に、勝利の声をあげるのはどちらか。



「貴女に想いを告げる為、この戦に勝つこととしましょう」





第四十八幕
乱戦乱舞





影が生み出した剣豪。
勝たなければ未来はない。


相手は影であるので力は使わずに済んだのだけれど、影法師が七緒が従えていた式神を使い始めていた。


結局、絶命の印まで刻を進めなければならないのだ。


誰もが希望の中に諦めを見出しながら剣を振るい続けていた。



「馬鹿が。新選組は人間の中でも随一の剣豪が揃う場所。北見が認めた者たちだ」


「ぐ……ッ」


「その影に、そう簡単に勝てるはずがないッ」



三人の妖、六人の影。
一人が二人を相手にしなければならず、正直厳しい戦況が続く。


背後には守らなければならない者たちがいて、戦えるのは三人だけ。
体の芯から漲る力を振り絞っても、気持ちより先に肉体が朽ちる恐れもあった。



「くそっ……たれッッ!!」



影の斎藤と平助の相手をしていた烏丸が、なんとか押し返すが間合いが悪い。
土方と原田の相手をする茜凪は、長物を持った原田と、勝つ為ならばどんな手でも使う土方に苦戦を強いられる。


撃剣師範を二人も相手にすることとなった狛神は攻め込むどころか、防ぐことで精一杯だった。



「ほらほら、押されていますよ?さっきまでの威勢はどうしたんですかぁ?」


「るせえな……ッ」



狛神が反論しつつ沖田の腕を弾いたが、背後から力任せの滅多斬りを繰り出す永倉の攻撃。
避ければ、押し返したはずの沖田の太刀筋。


体に切り傷が増えるのは必至。



「く……っ」



一方、茜凪は原田の槍の間合いが掴めずにいた。


音を裂いて飛んでくる攻撃、間合いを詰めれば即座に土方の刃。


となれば、土方がこちらに飛び込んで来るのを待つしかないと防戦に徹底しつつ、機会を窺っていた。


頭で考えても力で劣る分、誰よりも押されて追い詰められたのは茜凪。


退いて、退いて、退いて。
下がれば下がるほど背後の人間達に危険が及ぶことを理解しながら、思うように事が運べない。


だが、場面は訪れる。



「ッ!」



前に出て来た土方に槍を弾き返した瞬間、原田に隙が出来た。


今なら、斬れる。
確信し、土方の太刀筋を受け流し……返しの一太刀を腹部に決め込もうとしたのだが…―――。


ニィ、と不審に影の土方が、笑ったのだ。
同時に影法師の声が鮮明に耳に届いた。



「斬っていいの?」


「―――」


「死んじゃうよ」



手を緩めた時は遅かった。
斬り込みを途中で中段し引きはしたものの、土方の腹部に浅く傷口が生まれる。


刹那、反応をしたのは影と―――。



「ぐ…ッ!」


「副長…ッ」


「土方さん!!?」



背後で捕えられていた本物の土方だった。


一瞬で理解する。
同時に視界の奥に入ったのは、烏丸が影相手に斬りかかろうとしている姿。


彼の実力なら、殺せずとも相手を傷つける一太刀を繰り出すだろう。
間違いない、あれは斬れる……―――。


烏丸に向き合う、口元に孤を描いた斎藤の影に茜凪が声を張り上げた。



「凛斬っちゃダメェッ!!!!」


「な……っ」





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