薄桜鬼 弐

□42. 終結の刻印
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第四十二幕
終結の刻印







三頭である北見、多々良、春霞。


妖は妖の血筋を守るため、純血とまでは言わずとも妖としての血を守り続けて来た。
力が強い妖同士が結ばれれば、力が強い子供が生まれるのは必至。


風間は同じ理論で鬼として存続させようとしている。


妖だって、一族の頭領ともなればそれはもう避けられない問題となる。
だからこそ、当代の北見の大老たちは藍人が幼き頃より許嫁を設けていた。
申し分ない、多々良の姫君に。
歳も同じくらいでお互いが次期頭首・姫となり妖の一族を守り抜く。
先に頭首まで上り詰めたのは藍人だったが、彼と多々良の姫である七緒の婚姻の契りは特に変わらなかった。


多々良 七緒は、百年に一人生まれるか生まれないかの逸材であり、誰よりも強い力を持っていた。


純血の妖の姫。
純血で多々良の子供が生まれること自体がとても珍しく、一族は大いに喜んだという。


もちろん、北見との関係もよりよくするために仕組まれた縁談だった。



「多々良の一族は、北見・春霞と並ぶ三頭で“傀儡師”としてとても力を有している」


「傀儡師って……」


「傀儡を操る者たちじゃ。式神と近い、言わば人形を操り、敵と戦う」



烏丸の問いに丁寧に男が説明を重ねるが、茜凪はそれを知っていた。
藍人や幼い頃に聞いた覚えたあった気がする。



「次期姫君・七緒殿と藍人殿も友好関係にあり、七緒殿は藍人殿に心底夢中になられておったと聞いたが……。藍人殿は縁談を断っていたらしいの」


「あぁ……。大老たちにも言ってたな」



それが、殺しの理由か?
藍人が自分のものにならないから?



「そして縁談を断り、姿を眩ませた藍人殿は京の町外れで亡くなられたそうじゃ」


「“でも、現場に他の妖が駆け付けた時には、藍人の死体は無かった”」


「!」


「“あったのは、致死量の血と、彼に守られた一匹の妖の娘だけ”」



まるで現場にいたように語る茜凪に、男は口を紡ぐ。
目を凝らし、彼女の姿を穴が空くほど見つめて…遠慮がちに尋ねるのだ。



「もしや、そなたは現場にいたとされる、春霞の……」


「……はい」


「たまげた……。生きておったか」



噂では藍人の死と同様、茜凪も死んだとされていたのだろう。
姓も変え、瞳の色も、姿さえ変わった彼女。


常井の男はしょぼしょぼになった目をパチパチさせてから、寂しそうに呟く。



「そうか。そなたはその目で見られておったのだな……」


「死体がなくなった理由は分かりますか?」



どうしても、同情や憐れみの目を向けられることが嫌だった。
それは直接的に、茜凪の屈辱に変わる。
己が未だに弱く、情けない者であることが痛いほど痛感される。
だから話題を元に戻したのだ。



「恐らくじゃが、持ち去ったのは多々良の妖じゃろう」


「何で多々良が?死体を薬品に漬けて、どっかに祀るつもりか?」



烏丸が自分で尋ねてから“うわ、気持ち悪い”と身震いさせる。



「多々良には、禁忌とされてきた傀儡の術がある」


「禁忌……?」


「死んだ者の魂を傀儡に定着させ、あたかも甦ったかのように再現させる妖術じゃ」


「――――」


「待てよ!それじゃあ……っ」



死体が無くなった理由が、刹那にして理解できた。
藍人の死体が無かったのは…―――。



「ワシの推測にすぎんが、妖術での占いにも近しい星が出とる。ほぼ間違いはない」


「…ッ」


「藍人殿が亡くなられ約二年の月日が経つが……禁忌とされ、封じられた妖術を簡単に再現するのは難しいじゃろう。年月をかけ、成功させたのだとしたら今回の噂は真じゃ」





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