薄桜鬼 弐

□41. 復活の説
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寄る辺もなしに、風間に追いだされてしまった茜凪は仕方なく、とぼとぼと天王山の麓まで歩いていた。


この先に求めた答えに近付けると思えば嬉しいと感じたが、先程から心は寂しくて仕方ない。


同時に思い知る。


自分は、平和な日々の中で“藍人のために”とか言っておきつつ……いろんな事から逃げているだけなのだと。


結局、今の自分は誰も救えていない。
風間には叱咤され、追い出され、挙句に彼は自分のために答えへの導きをしてくた。


情けなくて、弱くて、悲しい。


滲みだした涙をごしごしと拭うが、拭うも間に合わず溢れるばかり。


自業自得であるのに、誰かに慰めてほしいと甘えた自分がいた。



「風間様……」



それでも足は天王山へ。


ゆっくり、ゆっくりと進みながら時刻は間もなく黎明を迎えようとしていた。





第四十一幕
復活の説





「追いだした……!?」


「あぁ」



風間のもとに訪れた烏丸は、開口一番の言葉に絶句した。
天霧もさすがに申し訳なかったようで、渋い顔して目を伏せている。



「お、追い出したって真夜中に……ッ?」


「あぁ」


「マジかよ……」



烏丸は“信じらんない”という顔して茜凪の行方を探そうと障子に手をかける。


風間の下にいても仕方ないと思ったのだろう。



「俺はてっきり、北見の家か貴様の所にでも泣きついたと思ったがな」


「俺んとこには来てないし、朝方北見の家にも顔出したけど戻ってないって…」


「ほう」



風間のその反応に、烏丸は障子にかけた手を止める。


何故、そこで称賛のような声が出るのか、と。



「行方、知ってるのか?」


「知ってどうする」


「追いかける」


「フン……。烏丸、貴様はあの娘に惚れ込んでいるのか?」



烏丸と茜凪が仲がいいのは誰もが知っている。
しかし、こんなに懸命に彼女の行方を探そうとしている彼に対しては、誰もが抱く疑問だった。


だが、この頃から烏丸は即答していた。



「茜凪は俺の友達だ」



天霧も顔をあげ、風間も出て行こうと決めた烏丸の背を見つめる。



「俺の初めての友達だ」


「……」


「あいつがいなかったら、俺の根性はずっとひん曲がったまま死ぬまで荒くれ者で、誰にも心を開かずに生きてた。絶対に。でも茜凪は俺に心を開くための機会をくれた」



風間たちの頭をふと過ったのは、古来から言われてきたもの。


春霞と烏丸は犬猿の仲である。
それを―――次期頭首が覆す日も近いのであろう。



「だから俺は友達の力になりたい」



自分がしてもらったように。
力を分けてくれたように、勇気を与え、支えられる存在でいたい。



「それだけだ」



見事、と天霧は言いたくなった。


風間が告げなければ天霧が告げるつもりでいたのだろうが、鬼の頭領は烏丸の決意を聞き、素直に口を開いた。



「天王山だ」


「天王山?」


「麓に妖がいる。陰陽師の血を引く決して血筋の良いとは言えぬ、下等の妖がな」


「陰陽師の……ってことは、常井か」


「そやつらが貴様と茜凪が知りたい情報を握っているだろう」



それから風間は烏丸と目を合わせることはなかった。


京の町並を見下ろしながら窓辺で冷たく呟けば、彼の背中を押すこととなる。



「さっさと行け」


「ありがとな、千景!」



屈託のない笑顔を一つ残し、彼は宿を後にする。


バタバタと駆けていく姿を窓から見下ろせば、風間は鼻にかけて笑うだけ。



「天霧」


「何でしょう」


「あの小娘が恵まれたものを持っているのだとしたら……」


「えぇ」



それはきっと、彼女の周りにいた――





「仲間でしょう」







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