No NAME

□02.Chi è?
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誘拐事件は終息を迎えた。
再び平和が訪れたレガーロでは、今日行えなかったピッコリーノをいつにするかなどの話が出ていた。


「まぁ、何にしてもさ!子供たちが無事で何よりだろ!」


リベルタが太陽のような笑顔で笑いながら、腕を頭の後ろで組んで廊下を行く。
後ろから追うノヴァがリベルタの発言を鼻で笑っていた。


「このお気楽能天気め」


「なんだとこのヒヨコ豆!俺が間違ったこと言ったかよ?」


振り返ると同時に、10p程小さい彼の顔へと睨むような視線を送る。
ノヴァはムッとした視線でリベルタを見返した。


「お前の頭は何を考えているんだ?」


「んあ!?」


「賊をやったのは“発火能力(パイロキネシス)”。通常の一般人では考えられない力を持つ者だ。そんな者がまだこのレガーロにいるとしたら……――」


背後から静かに見守っていたフェリチータも頷き呟く。



「まだ何か起きるかもしれない」


「でも、犯人を捕まえて、子供たちを助けた奴だろ?悪い奴じゃあないんじゃないのか?」


純粋にそのエメラルドの瞳を揺らして、リベルタは告げた。
フェリチータはそこにも納得できるようで、更に頭を悩ませていた。


「確かにそうだな。だが、こちらの仲間とも限らない。今回はたまたま目的のついでに助けただけかもしれない」


ノヴァの厳しい意見に、リベルタもフェリチータも言い返すことが出来なくなった。


「とにかく、発火能力者が見つかるまでお前たちも気を抜くなよ。それと、」


ノヴァが一拍置いて、時差で言い放った。


「僕をヒヨコ豆と呼ぶな」





02. Chi è?





報告を済ませ、やっと夕食にありつけるという安堵の表情を見せたリベルタとノヴァ、フェリチータ。
3人そろって食堂の席につく。

今日はマーサの特製オムレツ・フリッタータ。
食卓に並べられたオムレツからは、食欲をそそる匂いがたちこめている。
その匂いにつられてか、廊下からはダダダダダダダッと誰かの足音が轟いできた。


「んもぉぉ、いい!ルカちゃんのバカーッ!!」


食堂の扉を開け放つなり、パーチェはルカに暴言を言い放ち、涙目で席についた。
それを追って現れたのは、ルカとデビト。


「パーチェ! アナタ以外考えられません!」


「違うもんは違うんだってば!」


「どうしたんだよ」


「騒々しいッ!もう少し静かにしろ!」


ノヴァのお怒りを気にも留めずにパーチェはリベルタにすがりつく。



「リベルタァァ、聞いてくれるぅー!?」


「ちょっと、パーチェ!私の言い分だって……!」


「ルカちゃんたらね、ピッコリーノのために作ったカッサータを俺が盗み食いしただろって言うんだよー!」



やりかねない。と思ったのか。
リベルタは眉間に皺を寄せて笑った。
パーチェの大食いと底知れぬ食欲は、今やファミリーで知らぬ者はいない。
彼なら……やりかねない。


「でもでもっ、俺今回は食べてないんだってば!」


「アナタいま“今回は”って言いましたね!?」


「ほんとほんとっ!だって、俺がカッサータを一口食べて残すわけないじゃん!」



フェリチータはその言葉を聞いて、首をかしげた。


「パーチェ。カッサータ、残したの?」


「お嬢まで〜!残してないし、食べてない!」



パーチェは自分の潔白を証明するために、その大きな体を更に大きくしながら説明してきた。
それを見ていたリベルタが、


「なんだよ、状況がいまいち掴めないんだけど……」


過程の説明を求めた。


「さっき教会に戻ったら、私が丹精込めて作ったカッサータが……!」


ルカがその目に憤りを見せながら呟く。


「私たちが騒動で離れている間に、カッサータを盗み食いする人がいたんです! しかも“もういらない”とでも言うように食べかけが残してあったんです!」


許せません!と唸るルカ。
盗み食いをされたことも、なにより丹精込めて作ったカッサータを残されたことが心外だったようだ。


「でもルカ、パーチェが犯人なら最後まで食べきっちゃうと思うよ?」


フェリチータがきょとん、と首をかしげたままルカに助言する。
リベルタも頷いていた。


「そーだろ、パーチェだったら残さずに全部食べるだろ」


「むしろ俺なら置いてあったカッサータ全部食べちゃうってばぁ!」


その両手にナイフとフォークを既に構え、ガンガン机を叩き反論するパーチェに、ノヴァが再度うるさいと怒鳴っている。
横目でリベルタが


「どっちかっていうと、甘いもんが嫌いなデビトが残しそうだけどなぁ?」


と、まともな意見をぶつける。


「俺じゃァねェーよ」


興味ない、とでも言うような風潮でデビトがさらりと交わした。
ルカはようやく冷静になったようで、落ちつきを取り戻しつつある。




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