No NAME

□01.Il ritorno
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遠い昔。
優しい記憶のはじまりを、今でも覚えている。


「なァ……なにしてんだ?そんなトコで」


「……」


「まァーた、ケンカしたんだろォ?」


「…あたし、悪くないもん」


「これだからお子様は」


「みんなでそうやって子供扱いしないで!」


優しい木漏れ日。優しい声。
差し出された、優しい手。


「ほら、戻るぜ」


「…」


「心配するだろ」


今はもう、それを受け取ることも、差し出されることもない。


彼らには、もう二度と…―――。





01.Il ritorno





晴れ渡る空。
澄んだ海。
そして目の前に広がるのは、白をベースとし、豊かさを視覚で伝えるような色とりどりな街並み。



ここ、交易島・レガーロは誰もに幸せを送り届けるといわれる、平和で豊かな島。
過去に貧困や統治者の横暴な行為、流行り病などが蔓延していたがその時代を乗り切った島は、争い事が目に見えることは殆どなかった。
正しくは争い事が大事になる前に解決している人物たちがいるのだ。


島の平和の象徴である、元気な子供達が大通りから広間を抜け、市場を駆けていく。
どうやらなにかイベントがあるらしい。



「ほら、早くしろよ!ピッコリーノが始まっちまう!」


「お兄ちゃん待ってよー!」


「今日のピッコリーノ、おやつなんだろうな!?」



駆け抜ける子供達が口にするのは”ピッコリーノ”。
この豊かさがこの島に在り続ける理由のひとつである。


「オレも将来、アルカナファミリアに入りたいな!」


「わたしもー♪」


―――……アルカナファミリア。
それがこの島の自警組織。



「でもでも、アルカナファミリアに入るには不思議な力を持ってないと入れないんだぜー?」


「えぇ、そうなのー?」


今日はその自警組織・アルカナファミリアが島の子供達を招待し、もてなすイベント……ピッコリーノが教会で行われる日なのだ。


ピッコリーノとは、ファミリーが行っているものであり読み聞かせや相談事、そしてカルチョや手作りお菓子などが楽しめるイベント。
島中の子供達が楽しみにしているものである。


「このまま走れば間に合うぞ!」


子供達の一行は細い裏路地に入り込み、協会への道を行く。
ここを抜ければ、目的地まで一直線である。


しかし、この平和な絵に似合わない銃声がその場に鳴り響いた……―――。


「え…」















「おっし、これで全部だな!」


青いステンドグラスから射る光がゆらゆらと揺れる。
金髪の優しい色の髪を流しながら少年……リベルタが一仕事を終えたところだった。


「オーイ、リベルタァ…それはあっち、しかもそりゃコッチだ」


「え、うぉ、マジかよッ」


「ルカちゃーん、オレもうお腹空いて死ぬーッ」


「パーチェ、少しは手伝ってください!アナタここに来てからただ座ってるだけじゃないですか!」


賑やかな光景だ。
ここは先程の子供達が急いで目指していた場所……ピッコリーノが開催される教会のようだ。
そこで来客を待っている……そう、彼らがアルカナファミリアだ。


「にしても、少々遅いですね?子供たち」


帽子を被った黒髪の男・ルカが顎に手を当てて首をかしげる。
同時にポケットから銀時計を出して時刻を確認していた。
指す針はまもなく14時…。ちょうどシエスタにあたる時間だ。


「いつもなら始まる前には既に待っている子供たちなのに…」


「道にでも迷ってんのか?」


「もう開催は何度だと思ってるんですか。場所を変えたわけでもないのに」


「道が通れなくなってるとか?」


「えー?そんな報告、幹部長代理のオレの所にも来てないよー?」


「ノヴァに確認しておけばよかったですね」


仕方ない、様子を見に行こうと動いた4人のうちの1人である眼帯の男・デビトが教会の扉に手をかけた時だ。
バンッと勢いよくその扉が開かれた。


「おッと」


扉を開けてきた者と、出ていこうとしてたデビトがぶつかり、教会に入ってきた少女がよろけた。
それを簡単にエスコートして立たせると、デビト少女に顔を近付ける。


「大丈夫かァ?バンビーナ」


「デビト!」


息を切らして走って来た彼女・アルカナファミリアのパーパの娘であるフェリチータお嬢様であった。
後方の方ではオリオーネぶりを発揮したデビトにフェリチータの従者――ルカが文句を言い放っていた。


「デェェェビィィトォォオオ」


「はぁいはぁい、ルカちゃん、悪かったよ」


ルカの視線を簡単に流したデビトを、未だにルカは睨みつけていたが、フェリチータはデビトの仕草にもそれどころではないらしく、すぐに表情を元に戻す。
デビトとルカの古い馴染み―――パーチェが口を挟んだ。


「ところでお嬢、そんなに慌ててどうしたの?」


「そうなの、聞いて!!」


息を整える間もなく、フェリチータが声を荒げた。


「子供たちが…さらわれたの!!」



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