紫電一閃

□04. 稽古
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「で。誰が屯所に餓鬼を連れてきていいって言ったんだ」


「やだなぁ、土方さん。この子、さっきの浪士に絡まれてたんですよ?話を聞かなきゃいけないでしょう?」


「そりゃ分かってる。だが、屯所の中にまで許可なく入れていいと言った覚えはない」


「え、じゃあわざわざこの子を門前で茜凪ちゃんと一緒に待たせて、僕が会いたくもない土方さんのところにこうして許可を取りに来て屯所に入れるまで彼女とこの子を外で待たせた挙句、土方さんは許可を下ろさないっていう結末になればよかったんですか?うわぁ、相変わらず最低ですね土方さん」


「誰もそうは言ってねえだろうが!」



卯月が終わる頃のこと。


茜凪は久しぶりに訪れた新選組の屯所、西本願寺で沖田と土方の言い争いを聞いていた。


春の木漏れ日が漂う天気のいい日。そしてとてもよく響く二人の声。茜凪は居辛そうな顔して、二人より数歩下がったところで、市中から連れて来た男の子と並んでいた。隣の男の子は既に新選組の屯所ということに目を輝かせていて、大人の事情など気にもしていない。



「だいたい茜凪!お前もお前だ」


「はい……」



沖田がいる手前、堂々と“なんでお前まで戻ってきた!”なんて言うにも言えず、土方から痛い視線を受けながら俯く。


動くに動けずに、隣にいた男の子が廊下やら広間の方までパタパタと走り回り、キョロキョロしていることを止められなかった。



「土方さん。どうして茜凪ちゃんを責めるんですか?」


「あぁ?」


「別に彼女がここにいること、問題ないでしょう?隊士でもないんだし、あれだけ大きな戦いに関わった妖なんですから」


「……」


「別に彼女が一君と仲がよくたって、関係ないと思いますし。新選組に仇を成すならば斬っちゃえばいいだけですからね」



そう簡単に斬られてたまるもんですか……とも思ったが、体調がいい彼が相手だと、右手が使い物にならない自分に勝ち目はほぼ無かった。つまり仇を成すなということ。もちろんそのつもりもないし、逆に今、土方の命を受けて斎藤の傍にある立場なので仲間と言ってもいいと思うのだが。沖田が任務を知る由もないので、黙っているしかなかった。



「そういうことを言ってんじゃねえ。本来、コイツは部外者なんだ。そう慣れ親しんだように屯所に出入りされても困るんだよ」



正論だ。


そして彼は顔もいいし、演技もうまいので、いっそのこと役者も向いているではないかと思ったのも事実。本人に告げれば首が飛んでしまうかもとも思った。



「とにかく、その餓鬼の話を聞いて、さっさと親のもとに……――」



土方が呆れつつ、視線を子供に向けた時だ。


茜凪の隣にいたはずの男の子が……姿も気配も存在しなかった。



「……茜凪!!」


「はいぃ!」


「あの餓鬼はどうした!」


「えっと……広間の方に行った……ような」


「何で止めないんだよッ!」


「お説教されている時に他のことに気を取られるのもどうかと思いまして……」


「気付いてる時点で気が逸れてるだろうがッ!さっさと探せ!」


「ひぃ…っ」



怒りの号令を聞き、茜凪はそのまま一目散に男の子を探し始める。


駆け出した茜凪に対し、沖田はにんまり笑顔で笑っていた。そのままゆっくりとした歩幅で彼女の後を追っていく。


土方が見送りつつ、呆れた溜息を吐きだした直後だ。



「土方さん」


「なんだ」



沖田が横目で振り返り、土方の顔をニィと口角をあげて見つめた。



「もしかして、彼女に何か仕組んでたりします……?」



――……相変わらずの抜け目の無さ。流石は一番組組長と言ったところか。


頭でそんなことを思いながら、土方は顔を逸らし、沖田に告げた。



「さっぱり心当たりがねえな。お前もさっさと行け」


「彼女が一君の傍にいるのは、彼女の意志ですか?」


「いまの斎藤の事情なんて知らねぇよ。アイツが斎藤の傍にいるってなら、そうなんじゃないのか?」


「……」



しばしの沈黙。


ここで気取られる訳にはいかない。
……が。
ここまで追求されてくると、沖田にはゆくゆくばれるのではないかと思った。



「ふーん」


「……」


「じゃあ、一君にとってそれって凄く幸せなことですね」



意味深な発言をしつつ、沖田は何か思いついたように笑う。きっと何かを仕掛ける気でいるのだろう。


土方は、斎藤のことを信じている茜凪を信じ……あの娘がやり通すであろうと、敢えて何も言わずに部屋の奥へと消えて行った。


残された沖田もようやく茜凪を追い、屯所の広間へと向かうのだった……。





第四片
稽古







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