紫電一閃 弐
□46. 不返
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夜が明けた。
同時に誰かの心には暗闇が宿っていた。
集められたのはまた予期せぬ事態に巻き込まれてしまった人間である新選組と、新たな戦いの中心人物になるであろう妖たち。
隣の部屋で子春が重丸の様子をみててくれているのも心配だが、今はそちらに気を向ける程の余裕が誰にもなかった。
「これから話すことは、俺がここを離れてから入手した噂と事実だ」
重々しい口調から語られるのは一体なんなのか。
先程、掌から零れ落ちて消えてしまった小鞠とも関係あるのか。
茜凪は涙を言一滴たりとも零すことなく、目の前の相棒の目を見つめていた。
これが、別れへと繋がる物語の真実の一部であることを、まだ誰も知らなかった。
第四十六片
不返
「俺はこの一月、京を離れてから尾張にいたんだ」
「尾張……!?」
「里に戻っていたのではなかったのか」
「あぁ」
開口一番に告げられたのは、烏丸が黙って行動していたということだった。
誰かに事情を告げるわけにもいかなかったのだろう。だからこそ、出てきた言葉が“里に戻る”だった。
彼なりの思慮をした上での話だったが、斎藤も狛神も声を漏らす。唯一、その中でも茜凪は目を細めて烏丸から視線を逸らさなかった。
新選組の一員として屯所にいた土方や沖田、原田や永倉に関しては烏丸が尾張に出ていたことはおろか、京から姿を消していたことすら知らなかったのは当たり前。
そうだったのか、なんて原田と永倉が無言で顔を合わせている。
「何で尾張なんかに行ってやがったんだ」
「爛に呼ばれたからだ」
「里じゃなくて、尾張に呼ばれたのかよ」
頷いた烏丸に狛神は目を細めて首を傾げる。
狛神が、爛と烏丸は同じ一族の者であることは知っているが、話や物の進め方がどちらに主導権があるかまでは知らなかった。
水無月と茜凪に関しては、大方爛に振り回された結果だろうと悟る。この二人は爛と烏丸の具体的な関係を知っているからだ。
「呼び出された理由は、もう敢えて告げる必要もないようなもんだ……」
「妖の羅刹のことですか」
「な……っ」
そこまで黙っていた茜凪は、一時たりとも視線を逸らさずに答えを烏丸に投げた。
烏丸は視線をあげて、茜凪の鋭い視線を受け止める。どうしようもないくらい、痛くて辛いものから耐えてる心を隠して、平然を装っているのは看破できた。
「……知ってたのか」
「お千さんに聞きました」
「お千ちゃんに……?」
飛び出してきた名前に、千鶴が声をあげた。
茜凪が頷いてやれば、この二人は仲が悪かったのではないか……?と斎藤と原田が顔を合わせた。
しかし、よく考えてみれば千は鬼であり、茜凪は妖。彼ら人間にはわからないところで繋がりがあってもおかしくはないだろう。
「お千さんは、尾張の国で人間以外の者が化け物に成り下がっているという事例を教えてくださいました」
「……八瀬姫にもばれてたってことか」
「進展があったら教えてくれることになっていましたが、私が遭遇する方が早かったということですね」
「……」
何の感情も込められていない声。
淡々と説明だけを繰り返す彼女の声が、痛い。
今更、“小鞠という娘は何なんだ”と聞くに聞けない新選組だったが、彼女の腕の中で灰になった少女が、茜凪にとって大切な存在であることはわかっていた。
斎藤に関しては、彼女と小鞠の関係を知っていたからこそ。顔にも態度にも出せなかったが、胸を締め付ける思いがあった。
この乱世だ。人が死ぬことは当たり前のようになっているけれど、それでも……大切な誰かが大切な者の死で苦しめられている現状は己の存在と志を矛盾に導きながらも救ってやりたいと願ってしまう。
「結論から言えば、その通りだ。尾張では、妖の羅刹についての研究がされていた」
「妖の羅刹……」
「どっかの誰かが持ち込んだ変若水を、人間よりも強靭な肉体と生命力を持つ妖に与えることで、人間の羅刹を越える化け物を量産する。これは事実確認をした。間違いない」
「なんの目的で……」
「問題はそこだ。人間の戦に参戦するつもりかなんだか知らないが、誰が何の目的で、誰の命令で動いているのか。どうして妖の羅刹を生み出しているのかは今回突き止められなかった」
「……爛は妖の羅刹のことを知っていたということですか」
水無月が静かに尋ねれば、烏丸が同意で返す。
「爛は風来坊だからな……。各地で集めた情報の中に、妖の羅刹や変若水について知った。その中に、新選組の名前があったんだ」
「え……?」
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