紫電一閃 弐

□43. 本音
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「小鞠……」


「ねえさん……」



狛神が重丸が攫われたことを受け、後を追って巻き込まれた戦闘。


渦中にいると伝えられたのは、旧知の友であり、年下の少女だった。


まだ思春期すら抜けきらないこの娘が、一体なにをしでかしたというのか。


髪は美しい色から白く色が抜け、瞳の色は血に飢えた赤に変わっている。


茜凪はこの化物の姿を知っていた。


いつか誰かが知らせてくれた、尾張周辺で見かけられた人外。叫びをあげ、人や妖を殺す化物。


まさか……。



「どうして……」


「……っ」



茜凪が獣化した羅刹を留めてくれたおかげで、戦闘は今休戦状態。


しかし、これも時間の問題である。どう考えても、このまま終わるはずなかった。



「何で小鞠が羅刹に……」



問いはあまりにも残酷だった。


会いたくないと、二度と会わないことを心に願い、決戦へと持ち込んだにも関わらず、こうして巡り会ってしまうのは宿命なのか。


もう笑顔で笑い合った頃には戻れない。


心の距離も、彼女の体も、もとに戻る術などない。



「ねえさん……」



切なくそれだけを繰り返す小鞠の表情が今にも泣き出しそうで。


茜凪はそれ以上、何も言えなかった。


周りにいた一同も、小鞠の異変を感じ始めている。


怨念を胸に抱き、復讐するためにここにいるのかと思っていたけれど。


新八を助けたことといい、言動や行動が窮地に立たされた時、揺らいでいる。


小鞠の本音はどこにあるのだろうか。


誰かが突き止められればいい。


しかし、無情にも彼女たちはすれ違うだけだった……。





第四十三話
本音





茜凪の目には、今だけは新選組のことなど入っていなかっただろう。


真っ直ぐに赤い瞳を見つめて、納得できないというように目を細め、眉を下げる。絶望にも似た表情をしているのは、彼女がここにいる誰よりも、妖としては羅刹について知識があったから。


羅刹の原動力は何なのか。一体、どれだけの劇薬であり、人を陥れるものなのか。少なからず知っていたからだろう。


思い出されるのは、藍人との戦い。


何も知らないままでいたかったと、心から思いながら、引き返せないと理解したうえで抜け出せる道を頭の中で模索していく。



「小鞠……、」


「来ないで……!」



茜凪が狛神から離れ、一歩踏み出そうとした時。


小太刀をこちらに向けて、構えをとる小鞠の姿が焼付いた。


敵対を表しているのはわかっている。でも、どうしたって腕が震えていて、表情も怯えているように見えた。


力の差は歴然。動きにくい着物姿であっても、同じ刀を手にしたら小鞠が茜凪に勝てるはずなんてないんだ。



「来たら、新選組を殺すわよ」


「……」


「見てわかるでしょ?あたし、羅刹なの……!」


「……どうして変若水を飲んだの……」


「……っ」


「何が目的で、そのような力が欲しかったんですか……!」


「ねえさんみたいな……強い妖にはわからないよ……ッ」



返された言葉は突き放すものであるのに、どうして悲しそうな顔をするのか。


どうして悔しそうな顔をするのか。


今にも泣き出しそうな顔をして、涙を溜めて唇を噛む姿は何かを決意しつつも後悔しているように見えた。



「ねえさんは誰も怨んだことなくて、さいとーさんや新選組の奴らに憧れてて……ッ!それが強さになってるの、あたしだってわかるよ!」


「……」


「でも!あたしの中には、一族を滅ぼされた怨みや人間を許せない感情もある!同時に大事な人がいて、自分より幸せになってほしいって思える憧れた人もいる!そう思っているのに、その人が妬ましいのッ!」


「小鞠……」


「わかんないでしょ……?」



悲劇を嘲笑するような笑みだった。


向けられた表情の一つひとつが複雑。


色々な感情が混ざり合い、表情ってこんなにも感情を表せるものなのかと知る。



「こんなに複雑で、あたし自身が答えを出せない気持ち……わからないでしょ?」





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