紫電一閃
□04. 稽古
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探し回ること小半時。
茜凪は広間からも姿を消し、どこにもいなくなった男の子を探していた。
「どうしていなくなっちゃうんですか……」
広間も見た、ついでに道場も、勝手場も、隊士の部屋が集まる廊下も、床下の入れそうな空間がある場所も隅々まで確認した。
しかし、あろうことかどこを探しても先程の子供が見つからない。
このままでは土方から本気でげんこつを喰らうんじゃないかと脅えつつ、茜凪も着物姿のまま辺りを探し回っていた。
「あれ……茜凪?」
「はい」
呼ばれたので、振り返る。
猫でも探すような素振りをしていた彼女を、目をぱちくりさせつつ見つめていたのは、恐らく非番らしき空気を出した原田だった。
「原田さん……?」
「おぉ。やっぱり茜凪か」
近付いてくる長身の男が、茜凪の姿をまじまじと見つめていた。首を傾げて考えたところで、着物姿であることを思い出す。
「美人がいると思ったら、お前だったのか。着物姿だったから一瞬、島原の芸子かとでも思ったぜ」
「褒めても何も出ませんよ」
愛想よく笑ってやれば、原田も照れはしなかったが微笑みを返してくれた。
「ところで、珍しく姿を見せたかと思えば、お前こんなところで何してんだ?怪我はもういいのか?」
「あ、はい。怪我は何とか……それより……、」
「……?」
「男の子を探しているんですが……」
「男?」
まさか茜凪の口から、人を探していて、尚且つ男の子を探しているだなんて予想もしなかったのだろう。原田はもう一度目をぱちくりさせていた。
「浪士に絡まれていたところを斎……じゃなくて沖田さん達が助けたんですが、屯所についた途端、いなくなってしまって」
「屯所の中にいるのか?」
「はい、恐らく……。まだ話もきちんと聞いていないので探していたんですけど……」
唸りつつもう一度左右を確認して、声が聞こえないかどうか耳まで澄ませたがこの辺りにはいないようだ。
「なるほどな。一応、俺も探してやるよ」
「ありがとうございます……」
「見つけたら声かけるから、お前もそのへんもういっぺん確認してみてくれ」
「はい」
原田は茜凪と逆方向を探しながら歩いて行ったが、申し訳ないことをした気がする。彼にも彼の時間があり、こんなことをしている暇なんてないだろうに。……それを言ってしまえば、沖田に付き合わされている茜凪も茜凪なのだけれど。
「とりあえず、もう一度廊下を……」
と、首をそちらに向けた時だった。
「甘い!あまぁぁあい!」
「え?」
「そんな動きじゃダメなんだよ!もっとズバババババッて感じじゃねーとダメなんだって!」
「そんなこと言われても、おら初めてやるのに分からないよぉ……!」
「………。」
とてもよく聞き慣れた声が大きく響いてくる。そこにプラスして男の子なのだか、女の子なのだかわからない甲高い声も聞こえて来た。
視線を向ければ死角で見えないが、恐らく境内の方だ。
「全く。朝からいないと思ったら、こちらにお邪魔していたんですね」
向こう側にいる相手が誰なのだかは安易に予測できた。この声、喋り方。そして全然相手に伝わらないような教え方。
こんな空気を出せる者で、茜凪の知り合いと言ったらただ一人である。
「だぁーから!違うって!ここはこう!そこはそう!わかるだろ!?」
「わからないよぉ!」
「はぁ……烏丸の馬鹿に教えを乞うなんて、こいつも同じ類の人間か」
予想していた人物より一人多く、茜凪は目を驚かせることになる。
「烏丸……。というより、狛神まで……!」
「あ?」
境内の一番広い場所を使い、木刀を少年に持たせ、手ほどきをしている烏丸と、程近い石壇に腰かけて彼らをつまらなさそうに見つめていた狛神の姿だった。
先に茜凪の声に気付いたのは狛神だったようで、背後に手を置いて反り返っていた体と瞳を茜凪の方へと向ける。
「茜凪……?珍しいな、お前がここにいるなんて」
「貴方こそ……どうして……」
狛神と言えば、新選組には興味なし。藍人を救う戦いが終了した後、寝食は共にしていたが、日中どう過ごしているのかは殆ど知らない間柄だった。その彼が、こうして新選組の屯所である西本願寺に訪れているなんて……。
「俺様は見ての通り。暇だったから烏丸に付き合ってやったら、沖田に会いに行くって言い出してここにいる」
「まず貴方が烏丸に付き合うことが珍しいですね……」
「色々あんだよ、色々」
再びつまらなさそうにしつつ、烏丸と少年へと視線を向けた狛神。
とりあえず、目的の人物は見つかったので目を離さないように茜凪もその場に留まることにした。
烏丸も少年も、茜凪がやってきたことに気付いたようで一旦手を止めてこちらに挨拶をしてきた。
「よう茜凪!今日は一と一緒じゃないのか?」
「別に常に一緒にいるわけじゃありません……」
「そーかぁ?お前は何が何でも一にくっついてってる印象があるんだよな」
「今の発言で貴方がいかに他人を監察する眼がないか、よくわかりました」
あながち間違ってはいないけれど、常に一緒というのは誤解だ。斎藤に支障が出てしまうことはしたくない。
「で、お前はここに何しに来たんだよ」
「その少年にお話があるのです」
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