紫電一閃 弐
□41. 羅刹
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一方、事の有様を見届けつつ、重丸のもとへとやってきた斎藤は彼の体をゆすり声をかけていた。
「おい…重丸ッ!」
「ん……」
「重丸……しっかりしろ……!」
唸り声はあげてはいるものの、未だに目を覚まそうとはしていなかった。
とにかく安全なところへと彼を抱えて戻ってくれば、今度は室内で沖田が血を吐きながら咽ているのが目に入った。
「総司……っ」
「沖田さん!」
咳はやまず、千鶴が体をさすっていたがよくなる兆しは全くみえない。
涙目で困惑する千鶴に、申し訳ないが重丸のことも託して斎藤は前を再び見据えた。
だが、小鞠や狛神、そして新選組の一同の戦いから視線を逸らさなければならない事態がそこにはあった。
「あれは……ッ」
闇の中、どんよりと現れた霞む光。
だんだんとハッキリしてくれば、赤い点が山ほど見える。
髪は小鞠と同様の白髪であり、瞳の色は作り物の赤色。
そんなのがうじゃうじゃと湧いて出てきたのだ。
「羅刹……?!」
「いったいどこから……っ」
咳が止まった沖田の血を拭いながら、千鶴も光景に目を疑う。
狛神と小鞠の攻撃は止まらなかったが、さすがに新選組は誰もが羅刹の数に目を疑っていた。
「これ全部、あの羅刹かよ……!?」
「この空気……恐らく人間じゃないな……」
「ってことは……」
そう、用意されていたのは全て小鞠と同様の妖の羅刹。
殆どの者が縹家の者であり、中には子供も弱者もいた。
滅ぼされた縹の生き残りであることから、どうしても多族と比べれば数は少ないだろう。
それでもこの数の大半を占めているということは……。
狛神は羅刹の存在を確認してから、攻撃をする手は止めずに言葉でも確かめる。
「お前の一族、大半を羅刹にしたのか……」
「誰もが妖界に対して怨みを持っていた……。こうなることは、妖の大老たちも理解していたはず!予測できたでしょ!」
「く……ッ」
強まる小鞠の力。
まるで何かを急かしているような戦い方だった。
そして、この現れた羅刹の軍隊に驚いたのは、小鞠も同じだったかもしれない。
「(なんでこの場面であたし以外の羅刹を……ッ)」
その思いは、羅刹の軍隊を差し向けた女へと向けられていた。
「……縹。あなたは確かに懸命にこうして戦ってくれている」
再び屋根の上に現れた女は、静かに戦況を見守るだけ。
そしてたまにこうして軍隊を仕向けたり、力を貸すだけの司令塔だった。
「でも、もし私を欺こうという計画を含んでいるのならば……――それはそれで滑稽な物語ですね」
冷めた冷たい視線で“邪魔”することを決め込んだ茜色の目をした女。
まがいものの目ではないし、妖力を使っているようにも見えない。
本当の茜凪の瞳の色と、同じ……茜色だけがとても印象的だった。
「貴女は、私の駒です」
狛神相手に力を振るい続ける小鞠を見つめながら、不気味にそれは囁かれた……。
「主人を裏切るというのならば、貴女の命など価値もないのですよ」
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