宣言した数字は3。終盤に差し掛かった今でも、別に持っていたっておかしなカードではない。指先で慎重に選び出した手札が、微笑みを湛えたハートのクイーンなのは、誰も知らない私だけの秘密。





「ダウト」


淀みなく、鋭い声が手裏剣の手を突き刺す。空中にあった掌は言葉の槍を避けきれず、前進も後戻りもできなくなってしまってから投げ遣りに、カードを敗残兵の山へと落下させた。うつ伏せのまま倒れ込んだカードは顔をあげようともしない。それは手裏剣も同じだ。

あんたがまた、ソレを言うの?木を隠すなら森の中とばかりに、数多の嘘の中に真実の言葉を隠すレノが。今までついてきた嘘の分だけ木を植えたら、本当に森の1つや2つはできてしまいそうだし、嘘とともに吐かれた二酸化炭素は森の光合成を確実に手助けしてきた。なんてエコロジーな男だろう。

大怪我だと言われて駆けつけてみれば何てことはないただの切り傷だった(それも割れたワイングラスだ)かと思えば、逆に大丈夫だと笑っていたのに全然大丈夫じゃなかったこともあった。此処にいると誓った側からどこかに行ってしまうし、暫く帰れないと詫びた次の日には神羅ビルに戻ってきているし。

そんなレノが今更どの口で、私の嘘を咎めようというのか。ああもう世の中不公平だ。嫌いよ嫌い、大嫌い。

「……わかったわよ」

諦めと反抗とを半分ずつ込めた声は驚くほどかわいくない。自分の過ちを自らの手で証明しなくちゃならないのだから、カードをひっくり返す動作はひどく鈍重だ。ほら、ダウト。



「ハートのクイーン、またかよ」

「2度あることは3度ある、と言いますし……」

右隣のロッドは退屈そうに、左隣の短銃♀はやや困惑したように。このゲームの支配者はもはやレノ1人だ。ロッドはそれが唯一許された自由であるかのように、意味もなく手札のシャッフルを繰り返している。

「ばっか。そんな偶然が3度も続くなら、俺だって今ごろ大統領になってる」

偶然でもそれは無理ですロッド、と真面目にひどいことを言われている気がするが、今の手裏剣にはフォローする気も起きない。黙々とかき集めた山札を見返すと、短銃♀が出したカードはほぼ宣言通り、ロッドはたまに大嘘をついている、そしてレノは嘘八百だ。よくもぬけぬけと。

手裏剣はその中から1枚抜き出して、ちょうど手札の中心に差し込む。真紅の女王様。おそらく最初それはレノの手元にあって、私が引き受けた。それからというもの、私に12の数字が回ってくる前にレノがゲームを中断させてしまうし、嘘をついて場に出す度にレノが見破るし、このカードはずっと私の手元に残ったままだ。

どんな手品の種があるのかは知る由もない。クイーンを私に送り返し続けているその真意も。ただ女王様のスーツはハート、真っ赤に燃える恋心のスーツで、対する私のスーツは、真っ黒で地味なビジネススーツ。何かしらの嫌みが込められていると思うのは、勘繰り過ぎているだけなのだろうか。

男性にしては隆起の少ない、線の細い手のひら。そのくせ大きさだけは男性を感じさせるもので、重ね合わせてみれば大人と子供ほどの違いがある。その大きな手の上で、私達は踊らされているのだ。

「……手札、見えてるんじゃないでしょうね」

「実は、見えてる。市松模様がくっきりはっきり」

「裏面じゃなくて」

はあ、と浅く息を吐き出して、私はレノからの情報収集を早々に断念した。兎に角はやくあがれば良いのだ。

「1」

「2、です」

「3だぞ、と。これであがりだけど?」


……え?

この時まで誰もレノの手札に注目していなかったというのもおかしな話だ。だけど、暑いぞ、と顔を扇ぐ手元には何も残ってない。いつの間に。そう言えば、レノがダウトを宣告される瞬間をほとんど見てない。

「お前!最後の1枚になった時にウノって言ってねーぞ!」

「それは違うゲームだろ」

呼吸のリズム、問題なし。
眼球運動、問題なし。
笑顔……問題なし。

これだけだと、レノが嘘をついている要素は何処にも見当たらない。仕事柄、そういった変化には敏感な方だ。ただレノはそうやって、何食わぬ顔でさらりと嘘をつく。


「……ダウト、よ」


「残念でした」


レノは手裏剣がそうしたように、山札のカードをひっくり返した。違うのはその手付きが軽快だったことと、見えた数字が宣言通りだったこと。つまり、ダウトではなかったこと。

これも嘘、になるんだろうか。わざわざ疑われるような言い回しで、いかにも偽物っぽい言葉が真実で。あの時、私がはいはいと流していたあの言葉は、一体どっち?もう何を信じたらいいのかわからない。


「……嫌いよ、レノなんか」

「あ、それ。ダウトだぞ、と」



end.



嘘つきは○○の始まり

<レノ×手裏剣>



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