*短編*


□*fraud*
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───なぁ

これって詐欺じゃね?




まぁ分かってて"のる"んだから
俺も同罪か












†fraud†









あえて溺れるは赤き小さき恋心










――――――――




あ、また笑った。
駄菓子屋の向かいのベンチでの"公務中の休憩"と銘打った"さぼり"は毎度のことで、今日の"休憩"もいつもと同じ様に軽く30分は経過しているだろう。
ただいつもと違うのは目がある少女を捕らえて離さないという事。





駄菓子屋のばぁちゃんの話相手になるのは良い事だ。
(あのばぁちゃん最近旦那に先に逝かれちまったからなァ)




店の手伝いをしている所を見るのもよし。
(大方今日少し酢昆布をおまけしてもらったんだろねィ)




ただ、



(やけに客に野郎が目立って汚い事この上ねェや)







自分だって常連の身だ。
常連の顔くらい把握している。
(仕事柄顔を覚えるのは得意だ)




その他の顔がやけに目立つ理由はこれしかないだろう。
(その汚い手早く退けろィ)



あの兎が長居しているせいだ。


あぁ
イライラする。





沖田は腰にある愛刀に僅かに手をかけながら腰をあげた。




(セクハラ現行犯逮捕?
ロリコン抹殺法違反?
お巡りさんの健気な巡回中にやる気を削いだ刑?
よし、これに決定。)




「ハイハイ其処の庶民臭い面したお兄さん方、買う物無いなら業務執行妨害で逮捕しやすぜィ。
そこのガキ目当てならロリコン疑惑でこれまた逮捕でさァ。
これ以上ここに居たらお巡りさんの健気な巡回中にやる気を削いだ刑で更に逮捕するぞコラ。」




誰がガキアルかこの税金泥棒とか聞こえたが無視。
奥でばぁちゃんが困っていたのは確かなのだ。




いちゃもんつけてきたおっさんの手の爪を伸びてたからと言って刀で一振りして切ってやると、
さっきまでの威勢は何処へやら。
顔を青くして一目散に逃げていった。




一昨日来やがれカバヤロー。






「おい!聞いてるアルか!?」




「何でィ、エセチャイナ。お巡りさんにオイとは結構な言葉遣いですねィ。」





「黙れ税金泥棒!!
さっきの奴らは客アル!!!
何してくれとるんじゃボケェ!!!!!」




(全く気付いてないってかィ)

「……?何アルか?」




「何でもねェや。まぁその育ちの悪さ、俺が正してやらァ。」




「アホ抜かしてんじゃねぇよサド王子!」




「光栄なこって。」




お互い愛用の獲物を手に店先で睨み合う。
(店の事で揉めていたなんて忘れた)






あぁ。


今の彼女からは先程の欠片ほどの可愛らしさも感じとれない。

感じられるのは刺すような殺気に満ちた眼差しだけで、その視線が自分だけに向けられるものだと思うと何故かこの少女を独り占めにしているような、誰もしらない彼女を手に入れた様な感覚を覚えた。
(可愛くない女。)



















―――――――――――






もうどれ程の時間を殺り合っただろうか。
すっかりお日様は傾いて、そろそろ少しだけ出ている頭も隠れようとしている。



結局決着はまだつかぬままにそれぞれの武器をあるべき場所に収めた。




「そろそろ銀ちゃんがお腹減ったって文句言い出す頃だから帰るアル。」







でた。




彼女との会話(言い合い)の中には必ずこの人の名前が出てくる。




『ギンチャン』
『ギンチャン』
『ギンチャン』。




そんなに旦那が好きかよ。



今まで交わっていた視線を一方的にそらせ、刀を鞘に収める。
(あぁ胸クソ悪いことこの上ねェ。)





少しでも自分だけに視線をくれたと思ったのに。


少しでも自分だけの事を考えてくれたと思ったのに。



少しでも君の時間をくれたと思ったのに。





ここに居もしない男に自分の精一杯は直ぐに奪われてしまう。
(何だろこの空っぽさ)




いつもなら交す言葉を交しもせず、兎に背を向けて歩きたずと、いきなり右腕を引かれてよろけてしまった。




「………何でィ。」



「………お前何か変アル。」




「……………気のせいだろィ。」




何ヨその間は。と突っ込まれたが、そんな事気にしちゃられない。
腕に触れている体温が余りにも熱すぎて、心臓がおかしくなりそうだ。
(いや、もぅ手遅れだなこりゃ。)





「まぁいいアル。そういう事にしとくヨロシ。」





「だから何もな…「また明日なサド!!!」」






「……へ?」




途端に離れていく右腕の温もりは凄く寂しかったけど、代わりに頬に熱を思いっきり移された。













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