戦国BASARA
□ばれんたいん。
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「………っ、ちったぁ落ち着いたか」
「か…っ、忝のうございまする…っ」
幸村の錯乱は止まらず、廊下で騒ぎ立てていたのでそのうち何だなんだと外野も集まり始めた為、
叫ぶ幸村を米俵のように肩に担ぎ上げて一先ず自室に戻ってきて、とにかく落ち着かせようと必死に宥めた。
深呼吸しろって。
ほれ、ゆっくり吸ってー、はいてー、…そう良い子だBaby.
よしよし。はいもっかい、ひっ、ひっ、ふー???
……何か違う事も言ってた気がするが、それだけ必死だったのだ。
まあ、その甲斐あってようやく普通に会話ができるようにまで意識がこちらに戻ってきた。
お見苦しい姿をばお見せして……っ、そう言って先程からちょこんと正座して頭を下げたままではあるが。
「Ah−,もういいから頭上げろよ幸村」
「………っ、」
「つーかよ、アンタさっき何言ってたんだ?全く理解ができなかったんだが」
「………はわっ!?」
大袈裟な程に肩を震わせて、恐るおそるといった様にゆーっくりと顔をあげて政宗に視線を向け、しばらく何かを言いたげに口をぱくぱくさせ、あー、とか、うぅ〜、とか唸っていた。政宗はただ黙ってそれを眺め、幸村の言葉を待っていた。……百面相して面白えなぁ……とか思いつつ。
やがて意を決したようで、良し!!と気合を入れ、大きく息を吸い込み
「政宗殿っっ!!!!」
「お、おうっ!?」
「改めましてこちらを政宗殿にっっ!!!!」
膝の上に置かれていた木箱を両手で掴み、政宗に再び差し出す。
政宗もさっきは何だかんだで受け取れなかったが今度はちゃんとそれを受け取った。
「Hum…開けても?」
「もちろんでござる……っ」
かこ、
蓋を開け紙に包まれた中身を取り出し、がさがさそれを開いてみると姿を現す。
形は庶民的でどこにでもあるような、青色をしたごくごく普通の。
「―――…猪口?」
今朝方、こちらの兵士の方からお聞きし申した。
南蛮では今日、日頃お世話になっている方に感謝の意を込め“ちょこ”をお贈りする日でござると。
然らば某、政宗殿にと思案したものの……そういった物に疎く、況してや目の肥えてらっしゃるであろう政宗殿にどのような物をお贈りしたら良いか分からず、片倉殿に相談したところ、某が選んだ物ならば喜んで下さると、そう仰って頂けました。
しかしながらやはり心配で、片倉殿に城下の店まで同行して頂いた次第。
……お渡しする直前まで内密にと思い、政宗殿に黙って城を出た事、お許し下され。
今度は落ち着いてゆっくりとそう話す幸村に漸く事の次第が飲み込めた。
要はあれか、俺の為か。そうかそうか。
嬉しすぎて口元が緩む。情けない顔を幸村に晒してしまいそうなので慌てて手でそれを隠した。
「……なら最初からそう言えば良いのによ。何だってさっきあんな錯乱してたんだよアンタ」
「お、お恥ずかしながら、某っ、これまでに個人的に誰かに贈り物した事があまりない故、その…気に入って頂けるか心配だったり、気恥ずかしさで一杯で……もう頭が何やらぐるぐるしまして」
「成程な……まったくアンタらしいぜ。物一つ渡すだけにこの騒ぎだ」
「某、政宗殿の様にこういった事に慣れておりませぬ故……」
くつくつ笑えば、お恥ずかしい限りにござる…小さくつぶやいて、もしも幸村に犬っころの耳や尻尾が付いていたら恐らくへたりと元気をなくしているであろうそんな姿。
あまりにしゅん…としてしまったのでいたたまれなくなり、くしゃくしゃと頭を撫でた。
「Ah−,Sorry.……笑って悪かった。アンタにしてみりゃ真剣な話だ」
「そんな、某が至らぬのがいけないのでござる。政宗殿がお笑いになるのも当然の事」
「いや。そのアンタがそんな思いまでして俺にくれたコイツ、大事に使わせてもらうぜ」
青色したそれを掲げてみせると、きょとり、それを見つめてそれからおずおずこちらに視線を向ける。
「……お気に召して頂けたので?」
「of course.他でもねえ、アンタからのpresentだ。気に入らねえハズねえだろが。どんな宝物にも勝るってもんだぜ。
Thank’s.……ありがとな幸村」
「政宗殿……」
「……ってコトで、さっそく今夜雪見酒に付き合えや」
「……っ、はい!勿論にございまする!!」
陰りのあるものから一変、ぱあぁっ、一気に笑顔に変わった表情につられて微笑みがこぼれる。
そうだ。
しおらしいのも可愛いとは思うが、やっぱりコイツはこう元気に笑っているのが一番だ。そう思う政宗だった。