06

□nautical almanac
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沖から強い風が吹いていた。


巻上げられた砂はぱらぱらと不規則な音を立て、広い鍔に降り落ちる。

大量の漂流物が流れ着く浜辺。
その波打ち際に立ったミホークは珍しくも当惑していた。

今まで息のある人間が打ち上げられた事など一度としてなかった浜辺に、僅かだが息のある者が流れ着いていた。

こんなものにしがみついてこの島を囲む荒い潮流を抜けて来たのなら正に奇跡だと、木っ端を抱えたまま意識を失っている子供を見下ろし、思う。

さて、どうしたものか──と、暫し考えを巡らせたが、後の事を思うと面倒なことこの上ない。
いっそこのまま捨て置いてしまおうかと、思考が傾きかけたその時。


気づいてしまったのだ。
濡れて張り付いた衣服の肩口から覗く、
大きく、古い、刀傷に。


それは恐らく致命傷であった筈だ。


しかし、生き存えた。
そして今、漂流者の命をことごとく奪い去った潮流を越えて、この子供は浜に流れ着いた。

悪運が強いのか、それとも余程冥府に嫌われているのか‥。
些か、興味が湧いた。



ミホークは小さな漂流者を肩に担ぎ、断崖へと向かう。
海へと迫出す断崖の上。
中世の城を思わせる彼の居城が灰色の空を背景に海を見据えていた。


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