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□静寂の刻(全壱頁)
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其れが『ホンモノ』なら
たった一人で構わない……。
腕の中の、規則正しい呼吸
明け始めた空が
深い蒼へと変わり始める
まだ、静かな時間。
鳥すら起き出さぬ是時間は
世界の全てから隔絶され、只只
アナタと二人だけの、静寂の刻。
まだ、
寝息を立てる其の背中にくちづける。
肩に
首筋に
背中から回した腕を、体の前で握った侭
二人分の体温で暖められた布団の中で、夢現の微睡を、触れる唇の熱で確かめて行く。
只、ひとつ
手に入れた『ホンモノ』
愛おしくて堪らない其の全てを腕の中に収め、繰り返した行為の後の気怠い体と幸福に満ちたココロの侭
また、くちづけを繰り返す。
生きた熱
確かに呼吸を繰り返す体。
初めて感じる全てが、愛しい。
「……………烏哭?」
「其の名前は嫌い」
「───じゃぁ………健一?」
「………其れも厭」
僅かな微睡みから目覚めた声に
小さな声で答える。
くすくすと其の答えにアナタは笑い「なら何て呼べば良いの?」とおかしそうに云った。
アナタで無い
他の人間に付けられた名等、僕にはもう、必要が無い。
「新しい……名を」
僕の全ては
アナタだけのモノ
肩先にくちづけて囁けば、擽ったそうに身を震わせて此方に体を向ける。
子どもを抱くように弛く抱き締められて
まだ、汗の臭いのする胸に顔を埋める。
規則正しい心臓の鼓動
其の全てが、僕のモノ。
「愛してる」
ずっと下らないと思っていた
陳腐な愛の言葉。
今は足り無い言葉に、体を抱く腕に力を込める。
嗚呼………ホントウに、アナタだけ居れば僕は幸せ。
繰り返す
睦言とくちづけに
全てが産まれ直す
静寂の刻
静かな静かな
眠りに落ちる。
了
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