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□月夜縁側(全壱頁)
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障子に透過為る
蒼白い光に目が覚めた。








何時の間にか上がった月が
障子を照らし
其の影を冷えた室内に引いて居る。








誘われる様に障子に手を掛け、すう、と引くと、縁側の中央に白い影。








………阿近さん…。









声に出せず、心の内で名を呼ぶと
引いた障子の気配に気付いた彼が肩越しに此方を見た。








「………よう」










月の光に目を凝らせば、彼が腰を下ろす縁側の脇には盆に載せた徳利と猪口








「………月見酒、ですか?」








開けた障子の間から顔を出し、目の合わさった彼に云つた。





「おめぇもヤるか?」






「……謂え……私は…」








「そうか」









それ以上強く薦める事をせず、猪口を手に取り目線を上げる。
其の目線の先には、未だ低い位置に在る大きな月が、危う気な光彩を放って居た。





「………只、眠り子芥るには勿体無い宵だぜ?」








再び此方を肩越しに見遣り、ニヤリと笑う









「………夜気は冷える、羽織着て来い」












「……………阿近さん?」










抗い難い其の言の葉に、戸惑い小さく名を呼んだ。














「………其処に居たんじゃ、手が届かねぇだろうが」













其の言葉に、
血が沸いた。


鼓動が早鐘を打ち身動きが取れない。












「……月が変わる、早く来い」











「……………はい」










消えそうな声で漸くそう答え、のろのろと障子を閉める。








梁に掛けた羽織に手を通し
深く
息を吸った。







静かな是の宵に、胸の早鐘が響く様で恐ろしい。









障子の向こうは
別世界

蒼い月夜と、白い夜着の恋した男。
月を見乍ら二人で組交す酒の
何と
蠱惑的な事か。









羽織を着て、閉ざした障子に手を掛ける。
引けば室内に強く差し込む蒼き月の光。




延びた影を室内に残し
後ろ手に




閉めた。





終.


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