‡箱館‡

□Idoと言って?
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ああ、この人か…と、直感した。
容姿が美しかったから?
いや、違う。
この人は、内から光り輝くように綺麗だった。
血に塗れても、その美しさは少しも損なわれていなかった。
その姿に、釘付けになった。
「直ぐにわかった。」
自分がずっと逢いたかった人は、この人だ…と。
「やっぱり、変わってる。」
繕い終わった上着を目前に掲げて眺め、土方が複雑な表情で呟いた。
「普通、あの状況だったら、『鬼』とは見ても、美しいとは思わねぇよ。」
『鬼』と呼ばれ、厭われ続けた京での己を自嘲するが如く、土方が笑うと、人見がその鋭い吊り目をすっと細くした。
「でもそれ、俺にとっては同じ意味やから。」
「はぁ!?」
予想外の言葉に、驚き入って土方が人見を凝視する。
「確かに、アンタは『鬼』と呼ばれていた。実際アンタに逢って、俺も、アンタを『鬼』だと思った。」
ただし…と、人見が強く続ける。

「それは、アンタがあまりにも綺麗だったからや。綺麗過ぎて、人やないみたいやったから、俺は『鬼』のようだと、思った。」
見たこともない、人知外の美しさ。
本人の意思とは関係なく、きっと人を惑わせる。
それは、『美鬼』と呼ぶにふさわしいと思った。
「そう思ってた。アンタは綺麗やから、『鬼』なんやて。」
俺はずっと、そう思っていた…と、最後にもう一度きっぱりと付け足して、人見が土方によって直された自分の上着に手を伸ばした。




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