‡箱館‡

□Idoと言って?
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「初対面でアレはねぇだろ。」
ひとしきり思い出を語り、最後に土方が苦笑した。
「だから、それは前にも言ったやろ。」
此方も苦笑して、人見が頭をかいた。

そう、確かに、人見は言っていた。
ずっと、それこそ池田屋なんかのずっと以前から、自分は新撰組が好きだったのだと。
そして、その大好きな新撰組をつくり上げた、土方という男に、ずっとずっと、一目でいいから逢いたいと思っていたのだと。

人見は生まれも育ちも京の、生粋の京都人だ。
そして、かなり高い身分の人間だった。
将軍に認められた若き英才で有名だった。

そんな人間に…いや、そのどれか一つにでも当てはまる人間に、『新撰組が好きだ』なんて言葉、言われたのは初めてだった。

嫌われることは多々あっても、好かれることなど本当に稀な人斬り集団。

京の町の人間に『壬生狼』と呼ばれ畏怖嫌厭されていた幕府の狗。

そんな新撰組を、人見は本心から、『好きだ』と言ってくれた。


変わってるな、と思った反面、心に沸き起こる嬉しさを抑えることは出来なかった。


今思えば、あのときから自分はこの、人とは違う性質を持ったおかしな青年に、惹かれていたのかもしれない。


「そういえば…」
思い立ち、ふと土方が人見を見た。
「聞いたことなかったが、どうしてあのとき、俺が新撰組の副長だとわかった?」
人見は後に、あのときまで土方とは一度も面識がなかったと言っていた。
それが何故、一目見ただけで自分を新撰組の土方だと見抜いたのか。
不思議そうに見つめる土方に、人見はにっと微笑んだ。
「有名やったから。新撰組の副長さんは、どびっきりの美形やって。」
「冗談はよせ。」
からかわれたと思った土方が眉根を寄せ、きっと睨み付けると、冗談ではないと、人見が真顔で否定した。
「アンタ、有名だった。見たことないような整った顔しとるって。この世のものじゃないみたいに、綺麗やて。」
嘘偽りが欠片も感じられない真っ直ぐな人見の言葉に、土方が居心地が悪そうに目を泳がせ、そして、顔を背けた。
「でも、普通わかんねぇだろ、そんだけじゃあ。」
すると、人見は大きく首を横に振った。
「わかるさ。直ぐにわかった。だって、歳三はん、本当に綺麗やったもの。」





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