‡箱館‡

□Idoと言って?
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その日土方は、日頃から周りに控えろと言われていたにも関わらず、たった一人で京の町を歩いていた。
執務中に折れた筆の代わりを買うためだった。
誰か下の者に買いに行かせればよかったのに…と、後にくどくどと御説教を喰らうことになるのだが、少し潔癖の感がある土方は、自分で使う筆は、どうしても自ら選ばないと気が済まなかった。

そして結果、まだ筆を買ってもいないうちに、一人歩きの新撰組副長に気付いた不逞浪士三人に狙われるということになってしまったのだ。

一人で多勢を相手にするときの常套手段、狭い路地裏に誘い込み、予想外に早く、闘いは決着が着いた。
一見剣客とは思えない土方の容姿への油断と、相手がさほど腕がたつわけでもなかったことが、不幸中の幸いだったようだ。


土方が人見と出逢ったのは、そのときだった。


最後の一人にとどめをさす瞬間、薄暗い路地に突然飛込んできた長身の男。
それが人見だった。


ほんの一瞬しか目をくれなかったが、服装から決して低くない身分の人間だというのは検討がついた。

でも、だからと言ってそれがどうしたというわけでもなかった。

随分な長身だな、と思った以外、何の興味もわかなかった。

騒がれると厄介だな。

ただ、それだけをぼんやりと考えた。


しかし、その直後、己の全ては、この、間の悪い男に引き付けられることとなった。


あのとき、人見が初めて自分に言った言葉。



それは今も忘れない。







『ずっと、逢いたかった。』







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