‡箱館‡
□流星刀記事
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空を駆け巡る億万の星。
夜中なのに、長い間見つめていると真昼のような錯覚に陥る。
まるで其処だけ金剛石のカーテンを引いたようだった。
あれは、日本では、『天の川』と呼ばれる。
西洋では牛乳を溢したように見えるから、『ミルキー・ウェイ』と呼ばれていた。
実際には、あの星の群れは『銀河』という。
そんな話を君に初めて話したのは、確か、まだ出逢って間もない頃だった。
あれから何年もたって、君は今、この北の大地で、あの頃見上げた星空とは桁違いの、満天の星空を見上げている。
天候が良く、綺麗に星が見える夜は、いつも決まって、君はこうして外に出る。
凍えそうな冷気をちっとも気にしないで、小半時ほど、夜空を眺める。
それに、毎回自分も付き合う。
『何処行くの?』とか、『風邪をひくよ』とか、『一緒に付いて行ってもいい?』とかいう言葉を交したのは最初だけで、今では彼が席を立つと、黙って自分も付いて行くようになった。
防寒着を身に付けて、外に出て、暫く歩いたところで、立ち止まって空を見上げる。
最初の日から、今日の今まで、その間は一つとして言葉は交さなかった。
それでも、別に構わなかった。
君のことが好きだった。
そして君も、僕を好きだと言ってくれた。
言葉がなくても、二人にとってその時間は少しも苦しくなかった。
無言の時間。
でもそれは、沈黙ではなかった。
静かな、時間だった。
空に瞬く星だけが、少しだけ、うるさかった。
声をかけようか、迷ったことがないわけではない。
でも、自分にその静寂を破る資格があるとは思えなかった。
この静けさを破るのは、君でなければいけなかった。
君しか、破れなかった。
そして今日、初めて、君は言葉を口にした。