08/12の日記

19:42
悪魔で堕天使(屑牛)
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【堕とし合い】
  
 
例えるなら、その存在は僕にとって『悪魔』と呼べるものなのです。



どろどろとした罠に塗れて身を墜として。
僕は今、けっして逃れることの出来ない暗い場所にいた。

まるで蟻地獄にはまった獲物のように足元が少しずつ沈んでいく。絶望にかられ、もう神すら信じられなくなった頃。僕の耳に、悪魔からの甘い誘惑が聞こえてきた。…どこから聞き付けたのかは知らないが、どうやらこの悪魔は僕をさらに下の世界へと墜としたいらしく、わざとらしく僕の耳元でこう囁いた。


「いいザマだな、御門?オマエは今、とても辛くて苦しいのだろう‥?
ならば泣いてオレに助けを求めるがいい。」

「昔のように、オレの胸にすがりつくが良い。
――オレを求めないというのなら…オマエはこのまま堕ちていくだけだ。」

「「「・・・オマエには、俺しかいないだろう・・・?」」」



彼の声が何十にもこだまして、僕の精神をあおる。今まで必死につくってきた彼との境界線が、一気に崩れはじめた。
あぁ、頼むからやめてくれ。
そもそも最初に僕を壊したのは他でもない、君じゃないか…!

今更、それもこんな風に僕が弱くなった時に付け込もうとするだなんて――‥、君はあまりにも卑怯じゃないか。


「さぁ…はやくオレの手をとれ。そうすれば、其処から救い出してやる。」


いよいよ本格的に足元が埋もれてきた…。このままでは、いったい何処まで墜ちてしまうのかも解らない。ここを脱出するには、一時でも彼の手をとった方が得策なのかもしれない…。


弱音まじりの情けない考えをしていたら、もう一方の自分が頭の片隅で否定の意をとなえた。


――もしこの手をとったら、きっと僕は元の自分には戻れないよ。彼を信じて、その手を掴んだ瞬間。きっとこの悪魔は、僕の手をつかんだまま地獄の底へと行き、一生僕をその地に繋ぎ止めることだろう。愛する価値もない悪魔に一生を食い物にされる…それだけは、ぜったいに御免だ。


「―――さぁ、どうする…?」


悪魔は相変わらず、どこか嬉しそうな様子で僕を見下ろしている。
…まるで、僕が彼の手を取ると確信しているかのようだ。

でも、


「・・・君に迷惑はかけられないさ、早くここから離れた方がいい。」


『誰が君の手なんか』
本当はそう言ってやりたいのをなんとか堪えた。
…まだだ。まだ、彼に敵意は見せれない。僕は彼に自分の気持ちを悟られないように、口内で下唇の内側の皮膚をぐっと噛んで、我慢する。


「…御門!?やめろ、早くオレの手を取れ…!」


勢いを増したように、どんどんと下に沈んでいく僕をみて、必死に屑桐が叫ぶ。もしかして形勢逆転かな?僕になにを言って叫んでも無駄だよ。だって僕、意地でも君の手なんか取らないから。


「…御門‥、御門‥!なぜだ…、どうして…‥」


顔の部分まで埋もれていた僕に、屑桐は泣きそうになって問い掛けた。


「何故、オレの手を取らない…」


・・・数年前のあの時。僕を墜とすように仕向けたのは、君なのに。今のように他の誰かの手によって僕が墜ちそうになると、君はそんなにも追い詰められた様な顔をするんだね。そして弱っている僕に付けこみ、この首に首輪をはめようとする。


僕はすでに、目下まで闇に埋まっていた。完全に屑桐の視界から消えるまで、あと数秒。
目を閉じて、ゆっくりと数をかぞえる。

1・2・3…


ざぁああぁあっ、



解けていく呪縛、ゆっくりと引き上げられて浮きあがっていく体。


『御門・・・』


―――なぜ、助けたの?
とは言わない。
全部わかっていた。彼は僕を助ける、だってそれが彼の僕に対する執着。
…そしてその執着ゆえに、また彼はきまぐれに僕を闇へと突き落とす。たぶん、僕が彼に忠誠を誓うまで続く、この堕とし合い。


――だけどいつか、終わらせてあげるよ。もちろん僕が君の手に堕ちる事はないけれど。
もう少しだけ、その罠にはまってあげよう。
その罠さえも逆手にとって、せいぜい君のくやしがる顔をみててあげる。


彼は、『悪魔』です。
神様を信じ、神に殉じるべきはずの僕を闇につき落として、自分に忠誠を誓わせようとするのです。

…だから、僕も。


彼を泣かせるだけの、羽さえ持たない、ただの『悪魔』になったのです。


これで、おあいこ。



END
 
 

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